MIU404 （第4話・2020/7/17） 感想 ※追記アリ

TBS・金曜ドラマ『MIU404』（公式）
第4話『ミリオンダラー・ガール』、ラテ欄『殺人未遂事件…撃たれた被害者女性が一億円を手に謎の逃走!?』の感想。

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拳銃による殺人未遂事件が発生。被害者は2年前の裏カジノ事件で逮捕された元ホステス・青池で、薬局で銃創の応急処置をした後、1億円の入ったスーツケースを持って姿を消した。暴力団の内部抗争の線で組織犯罪対策課が動き出す中、桔梗（麻生久美子）は裏カジノの元オーナーの関与を疑い、初動捜査の継続を指示。伊吹（綾野剛）と志摩（星野源）は、青池の勤務先を訪ねる。
---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---

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原作：なし
脚本：野木亜紀子（過去作/重版出来!､逃げ恥､ｱﾝﾅﾁｭﾗﾙ､ｺﾀｷ兄弟と四苦八苦）
演出：塚原あゆ子（過去作/ｱﾝﾅﾁｭﾗﾙ､ｸﾞｯﾄﾞﾜｲﾌ､ｸﾞﾗﾝﾒｿﾞﾝ東京） 第1,2,3話
　　　竹村謙太郎（過去作/ｱﾝﾅﾁｭﾗﾙ､警視庁ｾﾞﾛ係ｼﾘｰｽﾞ） 第4話
　　　加藤尚樹（過去作/ｺｳﾉﾄﾞﾘ1,2、ﾎﾜｲﾄ･ﾗﾎﾞ）
音楽：得田真裕（過去作/家売るｵﾝﾅﾞ､ｱﾝﾅﾁｭﾗﾙ､ｲﾝﾊﾝﾄﾞ､監察医 朝顔､俺の話は長い）
主題歌：米津玄師「感電」 (ソニー・ミュージックレーベルズ)

今回も、違った違うイントロも『MIU404』の魅力の一つ

第2話の感想で 「野木亜紀子脚本の連ドラは、第2話から徐々に牙を剥く」と書いて、その真意は「 私（を、含めた視聴者）が、野木亜紀子脚本の連ドラの本質に、第2話から徐々に理解をし始め、自然と作品の世界に引きずり込まれて、最終回では見事に相手の懐に収まって、感動と余韻を楽しめるようになるように作り込まれている…」だと書いた。

そして、その「自然と作品の世界に引きずり込まれる工夫」の一つが、毎回違う『MIU40』と違うイントロ。第1話と第2話は、比較的最初から伊吹（綾野剛）と志摩（星野源）を登場させて、じわじわと二人の仕事が初動捜査を専門とする機動捜査隊であることを描く手法だった。まあ、それは全話の初動であるから説明せざるを得ないと言う事情が反映されていた要素もある。

第3話のイントロは、こんな感じだった

しかし、前回の第3話では、若い女性が公衆電話から警察に電話を掛け、その事件発生現場が「西武蔵野署」管内であると強調し、勘が鋭い視聴者ならこの時点で「西武蔵野署」がドラマ『アンナチュラル』で、最初に主人公が勤務するUDIラボ（不自然死究明研究所）に解剖を依頼する “あの二人の刑事” が勤務する警察署であること分からせ…

更に、事件現場に急行するのは伊吹（綾野剛）と志摩（星野源）でなく、同僚の陣馬（橋本じゅん）と九重（岡田健史）と焦らしに焦らした。

第4話はイントロだけで「緩急」の「緩」の回だと分かる

そして、この第4話、前回でサプライズ的に登場した、青少年たちに「ドーナツEP」と言うトローチ型MDMA系ドラッグを売り捌いている売人の男として菅田将暉さんを登場させたのに、そのことには一切触れずに、居酒屋でのんびり「桔梗（麻生久美子）の実生活」について、陣馬と伊吹と志摩が噂話に花を咲かせると言う刑事ドラマらしからぬ1stシーン。

そして2ndシーンは、まるでホームドラマのような桔梗の自宅風景。僅か90秒間のイントロではあるが、明らかにこれまでと演出も異なる。

当然、クレジットを読めば、第3話までは、割とイケイケの演出でビシバシと魅せる塚原あゆ子氏から、人情ドラマも得意とする竹村謙太郎氏に演出家が交代したことで、ドラマの幕開けだけを見ても、これまでを「緩急」の「急」だとすれば、今回が「緩」であることは容易に予想がつく。

この辺の隠す必要のない部分は隠さない潔さも、野木亜紀子脚本の緩急の付け方の上手さが表れていると思う。

「緩」の回でも導入部分の事件への引き込み方はスリリング

それにしても、今回も導入部分での事件への引き込み方と言うか、繋げ方が絶妙だ。

「ランドセル現象」と言う伊吹の善意の話から、志摩の金がもたらす悪意の話へするりと移行して、この時点では犯罪とは無縁にしか見えない青池透子（美村里江）が、血まみれでドラッグストアの店長に大金を支払って何かを強要している場面に繋いで、警察無線で一気に拳銃使用による殺人未遂事件発生と、スリリングに描いた。

ここまで、僅か3分50秒。もう、この時点で、2分半前のほんわかムードが一瞬に吹き飛ぶ。でも、今回が「緩急」の「緩」であることは忘れてはならないのだ。

本作の劇中の時間は､「令和元年5月17日(水)」なのか?

ドラッグストアの防犯カメラに訴え掛けるような透子の眼差しの印象的なカットのあとに、ビルの大型LED「YUNIKA VISION」のシーンがあり、機捜404が扱う事件のニュースの映像の下の、電光掲示板に「来年の東京五輪で２連覇を目指す。令和元年５月17日（金）の全国の天気」と流れていた。

©TBS

本作は、当初2020年4月10日からの放送開始が告知されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、ドラマの撮影スケジュールに遅れが出ていることを受け、4月1日に開始日の延期が発表されたから、この大型ビジョンのシーンだけ1年前に撮影済みだったとは考えづらい。

逆に、撮影用に意図的に令和元年5月17日のニュースを流すのは容易いはず。もしかして、全部が1年前の出来事だったと言うオチが隠されているのかも知れない…と、考えるだけでも、また面白味が増して来る。

「2年前の裏カジノ事件｣の新聞も「2017年1月12日(水)」

そして、更に伊吹が「2年前の裏カジノ事件？」と言ったあとの、事件当時の「10億円規模の違法賭博場 摘発」の見出しが躍る新聞の日付が「2017年1月12日（水）」。

©TBS

これも3年間なのに「2年間」と劇中で表現されていた。やはり、意図的な “何か” があると思う。

機動捜査隊が捜査を続行している違和感をきれいに払拭した

第1話では、機動捜査隊が「機動捜査」を超えて、事件解決まで引っ張った展開について、いくら初回で見せ場を作るにしてもやり過ぎだと、感想に書いた。

しかし、今回12分頃では、きちんと機動捜査隊が捜査を続行している違和感を、桔梗の警視庁刑事部・刑事部長の我孫子豆治（生瀬勝久）への報告の中の台詞、「初動捜査を継続しているだけです」の一言で払拭した。やはり、第1話は意図的に「MIU404」を活躍させたと言うことだ。

「妹みたいな人」は「10億の女神 羽野麦」だった…

桔梗と息子のゆかたと、いつも一緒に居る仲の良い謎の女性（黒川智花）が、「10億の女神 羽野麦」 であることが判明した。序盤で志摩が言ったように、私も「妹みたいな人」と思っていたから、カジノ事件の関係者であることに驚いた。

陣馬の「警察にとっては10億の女神　エトリにとっては10億の儲けを潰した女」が強烈だった。今回は、いろいろな伏線が回収されつつ、更に謎が深まる…と言う展開のようだ。

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第4話が3人の女性の生き様を描くことを印象付けた1カット

そして、15分過ぎから、この第4話は、桔梗、透子、麦の3人の女性の生き様を描くドラマであることを印象付けるカットがあった。

©TBS

それが、この透子の血が付いた指で、看板の「女」の文字に触れるカット。こう言う印象的な映像が入ると、ドラマの世界観への訴求力が増す。

やはり、気になる…

25分頃のバスターミナルの防犯カメラの映像にも、劇中の時間が「2019年5月17日」であるカットがあった。

©TBS

やはり、気になる…

伊吹と志摩の死生観や正義感や倫理感までさり気なく描いた

バスを停めて、伊吹、続いて志摩がバスに乗り込み、犯人たちと格闘し、暴発のくだりは見応えがあった。正に、正統派のバディものと言った感じ。

それも、いい感じの緊張感とコミカルさが融合して、短いシーンだったが、伊吹と志摩の死生観や正義感や倫理感までさり気なく描いた、本作らしい瞬間だった。そして、そこから、意外な「透子の死」。ここが、34分頃から、ちょうど「起承転結」の「転」になる。上手い構成だ。

今回は、「ピンク色のウサギのマスコット」を掘り下げる!

さて、ここで、前回は、「画面の中に登場するモノには何か作り手の意図が隠れているはず」の私の勝手な理論に基づいて、「バシリカ高校」について深掘りしてみた。そして、この第4話で掘り下げたいのは、透子が作ったとされる「ピンク色のウサギのマスコット」が印象的に映された、40分30秒頃の回想シーンだ。

©TBS

以前、『野ブタ。をプロデュース』の特別編の感想で、こんなことを書いた。『野ブタ』を知らない人のために簡単に説明すると、長い物語の中に、いじめられっ子の女子高生が、人気者になるために、「ピンク色のブタのマスコット」を手作りで大量生産して一躍人気者になる…と言うエピソードがある。

©日テレ「野ブタ。をプロデュース」第6話より

「ピンク色のブタさんグッズ」について調べてみると、ブタはヨーロッパでは「幸せのシンボル」とされており、 風水では「平和のシンボル」とされている。また、カラーコーディネートの観点からは、ピンクは「愛情や優しさを与えてくれる色」とされているから、これらを私が勝手に合体させると、「ピンク色のブタさんグッズ」は “女性同士のトラブルを解決してくれる力がある” と言う意味になる…と書いた。

僅か2秒半のｳｻｷﾞのｶｯﾄが､透子の決意と虚しさを見事に表現!

さて、本作では「ピンク色のウサギさんグッズ」だ。そこで、前回の感想で書いた、「第3話は、イソップ挿話『狼少年』をリスペクトしている」と言う点を思い出し、イソップ挿話に登場するウサギを紐解くと…

Wikipediaには、「米英を中心とする西欧世界ではイソップ物語や不思議の国のアリスなどに登場するウサギのように、秩序からはずれた存在をあらわす役目をあてがわれ、あわて者、怠け者、異界へ誘う者、トリックスターとして描かれることも多い」とある。正に、透子は「秩序から外れた存在」ではないか。

しかし、ピンク色には前述のように、風水では「平和のシンボル」とされ、カラーコーディネートの観点からは「愛情や優しさを与えてくれる色」とされているから、透子が自ら犯罪に手を染め悪の道にどんどんのめり込みながらも、心のどこかで平和や愛情や優しさに飢えていたことを、この「ピンク色のウサギさん」が表しているのではないだろうか。

だから、このSNSに書き込まれた文章を読み上げるシーンに挿入された「ピンク色のウサギさん」は、まるで、首を黒いロープで絞殺されたように横向きでぐったりして、目も口も見えずに映っているのではないだろうか。

しかし、このカットの直後は、逃げる決心をした透子がドラッグストアで「賭けてみます。今まで勝ったことないけど」と真言するカットに繋がる。ウサギは死んだが、透子はまだ生きようとしていた。そんな透子の決意と虚しさを、前後のオーバーラップを含めても “僅か2秒半しかないウサギのカット” が見事に表現したと思う。

1つ目の｢野木脚本の時限爆弾｣は､｢ピンク色のウサギさん｣

そして、物語が進んで行くと、それから3分後の宝石店のシーンで、ナント「ピンク色のウサギさん」が大事なアイテムとなることが分かる。

この辺も、これまでも書いて来たが、野木脚本には「伏線」と言うのとは違う、「時限爆弾」が仕掛けられていて、最初は全く気付かないが、途中で「これ、スイッチなの？」と少しだけ気付かせて、最後にドカ～ンと爆発して視聴者を驚かせると言うお得意な手法があるのだが、今回の「ピンク色のウサギさん」は正にそれ。

更に「ウサギの目」に限定して掘り下げると…

また、更に「ウサギの目」に限定して掘り下げると興味深いことが見えて来る。 ウサギの視野は360度で、ほぼすべてを見渡すことが出来る。これは、ウサギが弱い動物で様々な動物から狙われるために、長い耳で敵の音をキャッチして、更に広い視野で危険をチェックする。

そのために、ウサギ目は、視野は広いが、視力0.05～0.1くらいと、ウサギはかなり近視（近くのモノははっきりと見える一方、遠くのモノはぼやけて見える）と言う特徴がある。

どうだろう、「ウサギの目」と「透子の目」、「透子の生き様」を比較すると、一時的には視野が広かった時にマネーロンダリングで1億円を貯めたが、周囲に敵がいて逃げられないことを察知したら、大胆な行動に出た。

本来（の、ウサギの目）なら、近視眼（比喩として、大局の見通しがきかないこと）的にマクロ的な思考になるのに、物語はそうならずに私を気持ちよく裏切って、進んで行く。

九重の機転の良さからのラストスパートの導入部もお見事!

そこで登場するのが、警察庁採用のキャリア組の新米で、今どきの若者らしく思ったことを包み隠さず口に出す九重（岡田健史）。九重が、みんながSNS「つぶったー」のタイムラインが上から下に時系列が流れていると勘違いして読み、解釈していることを指摘した。

この辺は、年齢層の幅広い登場人物の初期設定の絶妙さが活かされた場面だ。こう言う “目から鱗が落ちる” ような、分かり易いオチを、ラストスパートの導入部に持って来るセンスの良さにも脱帽だ。

2発目の「時限爆弾」が、あの「看板」だったとは!

そして、今回、2発目の「時限爆弾」が、15分頃に登場した、透子の血が付いた指で、看板の「女」の文字に触れるカットだったとは！ かなり印象的に描いたから何かの「時限爆弾」ではないかと推測はしたが、まさか、このような形で利用されるとは想定外だった。そして、透子自身が「ピンク色のウサギさん」だったのだ。

©TBS

様々な悪事や悪人から狙われ続けた弱い人間であった青池透子は、怯えながら生き続けたが、最期は自分の能力を最大限に活かして、自らの手で、残念ながら息絶えたが、絶望を希望に変えた。

犯罪に巻き込まれ、更に深みの犯罪に染まって行く犯罪者の逃亡劇なのに、単純に「やるせなさ」や「儚さ」で終えるのでなく、リムジンバスから国際宅急便のトラックを見届ける透子を描くことで、ささやかだが「救い」を与えた透子が引きを引き取るシーンはお見事と言うしかない。

あとがき

最後の最後では、しっかりと、伊吹と志摩の死生観まで描き切りましたね。前回とは全く違う種類の事件とストーリーでしたが、やはり、本作には映るモノには必ず意味があって、それを脚本上も映像的にも巧みに活かして、どんでん返しを作るのは、今回も秀逸でした。次回にも大いに期待します。

また、綾野剛さんと星野源さん始め、演者みなさんの演技も素晴らしいです。もちろん、脚本と演出と演技の三位一体の成せる秀作に間違いありません。そして、感想を待って下さった読者の皆さん、気合が入り過ぎために投降が遅くなり、申し訳ございません（謝）

2020年7月18日 20:51 追記

第4話について、新たに下記の投稿を致しました。
ドラマ「MIU404」第4話を、イソップ挿話「ライオンとウサギ」に重ねて、勝手に掘り下げてみた

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【『MIU404』に関連した投稿】
ドラマ「MIU404」第3話に登場した「バシリカ高校」と言う学校名を勝手に掘り下げてみた
ドラマ「MIU404」第3話に登場した「バシリカ高校」の制服が、芳根京子主演「表参道高校合唱部！」と同じ! 両校に共通点も!!
ドラマ「MIU404」第3話の「バシリカ高校」校長室の"額に入ったメッセージ"を勝手に掘り下げてみた

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【これまでの感想】
第1話 第2話 第3話

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感想の趣旨について

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