初恋、ざらり （第6話・2023/8/11） 感想

テレビ東京系・ドラマ24『初恋、ざらり』
公式リンク：Website、X(旧Twitter)、Instagram

第6話『「怒ってますか…？」伝わらない想い。』の感想。
なお、なお、原作の漫画・ざくざくろ「初恋、ざらり」は、全話を既読。

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岡村（風間俊介）は有紗（小野花梨）ともっと真摯（しんし）に向き合わねばと思うが、言いようのない罪悪感を覚える。一方、有紗は冬美（若村麻由美）から、岡村と支え合いなさいと助言される。そんな中、職場でひそかに所長（渡邊聡）の誕生日会の準備が進められることになるが、迎えた誕生日当日、用意されていたプレゼントが見つからないという事件が。その時、有紗はある行動を取る。 ---上記のあらすじは[Yahoo!テレビ]より引用---

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原作：漫画・ざくざくろ「初恋、ざらり」
脚本：坪田文（過去作/ｺｳﾉﾄﾞﾘ1,2､おじさんはｶﾜｲｲものがお好き｡） 第1,2,6話
　　　矢島弘一（過去作/ﾊﾙｶの光､警視庁･捜査一課長3）
　　　池田千尋（過去作/ﾌﾟﾘﾝｾｽﾒｿﾞﾝ､大豆田とわ子と三人の元夫） 第3話
　　　紡麦しゃち（過去作/） 第4,5話
　　　藤沢桜（過去作/福岡恋愛白書17 おはようﾏﾄﾞﾝﾅ） 第5話
演出：池田千尋（過去作/ﾌﾟﾘﾝｾｽﾒｿﾞﾝ､大豆田とわ子と三人の元夫） 第1,2,3,6話
　　　七字幸久（過去作/私と夫と夫の彼氏）
　　　倉橋龍介（過去作/ﾘﾌﾞｽﾀ-Top of Artists!-､警部補ﾀﾞｲﾏｼﾞﾝ） 第4,5話
音楽：元倉宏、小山絵里奈
ｵｰﾌﾟﾆﾝｸﾞﾃｰﾏ：a子「あたしの全部を愛せない」
ｴﾝﾃﾞｨﾝｸﾞﾃｰﾏ：ヒグチアイ「恋の色」
ﾀｲﾄﾙﾛｺﾞ：黒木香（BayBridgeStudio）
ﾁｰﾌﾌﾟﾛﾃﾞｭｰｻｰ：祖父江里奈（過去作品/しろめし修行僧､ｼｼﾞｭｳｶﾗ）
※敬称略

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約１分20秒間の長回しワンカットに注目

メインタイトルのクレジットを見なくても、今作の熱烈な視聴者ならお気づきになったのでは？

今回の演出が、第3話以来の池田千尋氏だったことに。

池田氏の演出であることが最初で一番分かりやすいのが、岡村（風間俊介）と兄・龍之介（浜中文一）が食堂で語らうシーンの長回しカットだ。

「まちがいさがし」のくだりの直後からの約１分20秒間の長回しワンカットがそれ。

このカットで、突然に登場した兄の状況説明と、岡村との関係、更には家族間のかかわり方などを、まるで隣の席に座って聞き耳を立てて聞いているような雰囲気の創出だ。

これに似た演出が、池田氏が脚本と演出を担当した第3話にもあったのを覚えているだろうか。

楽々運送のビル屋上で岡村が同僚・久美（西山繭子）に有紗（小野花梨）のことを相談する場面では、約50秒間の長回しがあった。

今回は、その、ほぼ倍の長さ。

やはり、どうしてもカット数が多くなると、映像が説明っぽくなってしまう。

そう、「ここを見てください」「ここを聞いてください」という感じで。

でも、普通の生活で我々が相手と話す時に、当然だがカット割りなんてしない。

見たいところを見て、聞きたいことを聞こうとする。

そのことを映像でやることで、視聴者が作品の世界に没入しやすくなる。

今回の長回しも、作品の序盤でやることで、グイっと視聴者を引き込む作戦として成功したと思う。

「支え合い」と「悪者になる」という価値観や言葉の解釈

今回も、ストーリーについては、どうやってまとめて良いやら…

ということで、思いつくままに書いてみる。

今回で描いてきたのは、価値観の相違であり、価値観の固定化でもあり、言葉がもつ曖昧さであり… という感じだろうか？

例えば、「支え合い」と「悪者になる」という価値観や言葉の解釈だ。

一般的に「支え合い」といえば、互いに相手の助力（手助け）となり、関係や状態などを維持していく（続ける）ことだ。

「悪者になる」は一概にいえないが、「他人のために自ら悪者を買って出る」とか「その人を悪者扱いする」とか。

今回の有紗は、「自分がやっちゃった」と思い言い出すことで事態の終息を望み…

事態の終息でホッとした “本当の悪者” の湯川祥子（尾上紫）を見て、これが自分にできた支え合いだと思ったわけだ。

要するに、物事を系統的に捉えずに（捉えられずに）、その時その時の状況と状態における自分の感情だけを口にしている… といっても良い。

一方の岡村は、物事を系統的に考えているうえに、物事を客観視しているから、なぜ全く悪くない有紗が結果的に悪者になったことで事件が解決とするのかに疑問しかないし。

更に、有紗自身が、自分の持つ違和感を覚えないことへの違和感に悩む。

一般的な「知恵」と、仏教用語の「智慧」の違いについて

ここで、仏教の教えに興味のあるずぶの素人のオッサンが、知ったかぶりで書いてみる。

「ちえ」という単語はご存知だと思う。

しかし、漢字で書くと、一般的な「知恵」と、仏教用語の「智慧」の大きく二つに分かれる。

「知恵」は、「俗世（世の中）をうまく生きるための知的な能力やアイデア」のことを指す。

「智慧」は、「物事をありのままに把握して、真理（真実）を悟り、人の苦しみを無くすための認識力」のことを指す。

要するに、目の前の騒動に対して、（自分を含めた）誰かを悪者に仕立ててうまく事を進めるように考えるのが “知恵” であり。

騒動に対して、誰も悪者にすることなくうまく事を進めるように考えるのが “智慧” ということ。

自然に"智慧"ある行動をとった有紗の奥深い心理描写

私が思うに、岡村は、有紗が事態を収束するための “知恵” という “道具” に利用されたことに、憤りと不安と悩みを抱えたと思う。

一方の有紗は、ただ、「私がやったのかも？」と言えば良いのかな？ 程度しか考えていない。

しかし、今回のエピソードが興味深いのは、知的能力に問題があるとされる有紗がとった何気ない行動が、実は “智慧” にすごく近いことだ。

繰り返すが、「智慧」は、「物事をありのままに把握して、真理（真実）を悟り、人の苦しみを無くすための認識力」のこと。

有紗は、プレゼントが紛失した状況を見て、単純に「私がやったかも？」と言いただけだが、その場は落ち着いた。

あとから、湯川が有紗に事実を伝え、「助かった…」と “飴玉” をくれたという状況だけで、有紗は “助け合い” をやったと満足になった。

たったそれだけのことだが、実は所長（渡邊聡）の誕生日会の準備をしてきた人たちの苦しみを無くす行動をしていたのだ。

有紗は真理を悟っているとは思えないが、物事をありのままに把握するという行動は誰よりもピュアにできる人だ。

だから、自然と “智慧” のある行動をできたのかも？

岡村だけでなく、私を含め “知恵” に固執する人間には分からない境地を描いた深いエピソードだともいえる。

あとがき

岡村が憤りを感じてイラつく姿を見て、「怒ってないですかね？」と泣きじゃくる有紗が切ないです。

有紗も岡村も、相手の苦しみを無くしたいと思っていれば、分かり合える日は来ると思います…

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