NHKドラマ10「宙(そら)わたる教室」 （第10話/最終回・2024/12/10） 感想

NHK・ドラマ10『宙(そら)わたる教室』
公式リンク：Website、X(旧Twitter)

第10話/最終回『消えない星』の感想。

なお、原作(小説)となった伊与原新『宙わたる教室』は未読。

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藤竹（窪田正孝）が科学部を始めた本当の理由を明かしたことをきっかけに、科学部は再び結束。学会発表のエントリーにも間に合い、岳人（小林虎之介）と佳純（伊東蒼）が発表を担当することになる。一方、藤竹は恩師の伊之瀬（長谷川初範）から思いがけないオファーを受け、逡巡。岳人が藤竹の様子に異変を感じる中、学会発表の日を迎える。
------上記のあらすじは、公式サイトより引用------

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原作(小説)：伊与原新『宙わたる教室』第70回「青少年読書感想文全国コンクール」課題図書・高等学校の部に選出）
脚本：澤井香織（過去作/夜ﾄﾞﾗ｢ﾕｰﾐﾝｽﾄｰﾘｰｽﾞ｣第3週/最終週｢春よ､来い｣,特集ﾄﾞﾗﾏ｢むこう岸｣）
演出：吉川久岳（過去作/猫探偵の事件簿,ﾄﾞｷｭﾒﾝﾀﾘｰﾄﾞﾗﾏ｢猫探偵の事件簿｣)」 第1～4,9,最終話
　　　一色隆司（過去作/大河ﾄﾞﾗﾏが生まれた日,育休刑事） 第5,7,8話
　　　山下和徳（過去作/映画｢ｽﾍﾟｼｬﾙｱｸﾀｰｽﾞ｣） 第6話
音楽：jizue（過去作/下剋上球児）
主題歌：Little Glee Monster「Break out of your bubble」
制作統括：橋立聖史（過去作/猫探偵の事件簿ｼﾘｰｽﾞ,だれかに話したくなる山本周五郎日替わりﾄﾞﾗﾏ）
　　　神林伸太郎（過去作/ﾕｰﾐﾝｽﾄｰﾘｰｽﾞ）
　　　渡辺悟（過去作/卒業ﾀｲﾑﾘﾐｯﾄ,ﾐﾜｻんなりすます）
※敬称略

最終回の感想も、「考えるな、感じろ！」だ

「初めまして」の皆様も、ご常連の皆様も、管理人のみっきーです！
お仕事や学校の休憩時間や移動中の方、就職活動中の方、病気療養、子育て、介護など、それぞれの生活を送る読者の皆様…
私のブログをご訪問いただき、心から感謝申し上げます。
―――ここまで、ごあいさつ―――

ついに、終わってしまった。

そして、やはり、最終回の感想も、この言葉から始めたい！

「考えるな、感じろ！」
　・原典(英語)：“Don't Think. Feel!”

今作の感想で、初回から引用し続ている、米・香港合作映画『燃えよドラゴン』の冒頭で、主演のブルース・リーが放ったセリフであり、名言とされる言葉だ。

というわけで、最終回もおっさんが、＜考えるな、感じろ！＞　に基づいて、感じたことを文章化してみる。

その感じたことを書いてみる。

そして、これまでもたくさんの、そして前回の感想には特にたくさんの Web拍手やコメントをいただいた。

こう言っちゃなんだが、軽く朝ドラ超え…　である（笑）

最終回に相応しく、きっちり、びっちりと書こうと思う。

エキストラをいかした"名もなき科学者たち"のための物語

分からない方は、前回の感想を読んでいただきたいのだが。

前回は、よい意味で、ほぼ全編が　俳優・窪田正孝劇場＞　だった。

しかし、最終回は、“俳優・窪田正孝” はやや後退させて、小林虎之介さんを中心に、今作にこれまで出演した俳優陣に見せ場を設けていた上で。

いわゆるエキストラ（映画やテレビで、群衆・通行人などの役を演じる臨時雇いの出演者と呼ばれる。名もなき登場人物）をいかして、今作に相応しい “名もなき科学者たち” のための物語になっていたのが、最も興味深い。

やはり、今作のタイトルは『宙(そら)わたる教室』であるから、描くべきは「教師の威厳や活躍」ではなく、「教師と生徒」であり。

誰の頭上にも無限に広がる “宙(そら)” の下で、躍動的かつ創造的に学びて生きること…　であったと思うのだ。

伊之瀬「どうだ　飛び込んでみないかね？」が原点の最終回

「宙の下で躍動的かつ創造的に学びて生きること」を最初に提示したのが。

序盤での藤竹叶（窪田正孝）と藤竹の恩師で、現在は山梨の実家で暮らしつつ、科学の楽しさを広めるための講演や出前授業をしている、元東郷大学の教授・伊之瀬嘉之（長谷川初範）の電話の会話の中の次のセリフだ。

藤竹「カリフォルニア…」
伊之瀬「どうだ　飛び込んでみないかね？」

画面は、レンズ手前に廊下にいるぼやけた藤竹が大きく映り、教室内の科学部部員らにピントが合う構図だ。

いつもは自信ありげしている藤竹の首(頭)の妙な動きに気づく…　読み書きが苦手なために中学から不登校になり、不良となった、現科学部部長の柳田岳人（小林虎之介）が見えている。

ここ、普通なら「どうだ　思い切って行ってみないかね」だと思うのだ。

しかし、あえて「飛び込んで」という言葉を使って、「勢い」「挑戦」「没入」「冒険心」「スリル」を想起させている。

もちろん、この伊之瀬の「どうだ　飛び込んでみないかね？」は、藤竹宣先生に対してだけでなく。

のちの、科学部部員たち、科学部員の関係者たち、そして伊之瀬の教え子である藤竹の大学同期でJAXAの准教授となったエリート・相澤努（中村蒼）にまで波及するという壮大な物語に進んでいく。

あえて、このセリフを言っている伊之瀬の映像は無しにする演出によって、ちょっと大袈裟な例えになるが。

宗教的な意味でない “神＝先導者・守護神” 的な “見えない存在・遠い存在” として表現しているのだ。

だから、藤竹の「カリフォルニアですか？」の直前の「メンバに加わってほしいと言ってる」のセリフを最後に、二度と今作に伊之瀬は登場しない（させない）演出になっているのだろう。

いやあ、この感じで細部を言及していったら、前回同様に4時間コースになっちゃう（汗）

主人公(あなた)が見ている、生きている世界だけじゃないよね？

私は、ドラマ、特に “連ドラ” の感想で大事なのは、次のことだと書いている。

「主人公が生きている世界」と「主人公が生かされている世界」と「主人公が生きているから成立する世界」がリンクしているように描く。

連続ドラマの脚本家や演出家、予算やスケジュール等を管理する制作統括（プロデューサー）が、意外と軽々に考え、疎かに放置して平気なのが、“一度登場されたキャラクターのその後” だ。

要するに、過去を含めて今現在の主人公と、その周辺人物を描くことを最重要視し、最優先してしか、物語も映像も作らないクリエーターが多いってこと。

しかし、現実の世界が、そうであるように。

主人公が生きている限り、進行中の「主人公が生きている世界」があるのは当然だが。

「主人公が生きている世界＝主人公が見ている世界」が存在するための、過去と同じ比重で「主人公が生かされている世界＝主人公が見ていない世界」があるはずだ。

例えば、あなたが普段一緒に生活している家族は「主人公が生きている世界＝あなたが日常的に見ている世界」だが。

買い物をするお店や、病院などがあるから生きているから存在しているわけで、それが「主人公が生かされている世界＝普段のあなたには見ていない世界」なわけ。

さらに、職場や地域で関わる人たちなどは「主人公が生きている世界＝主人公が見ている世界」であると同時に、「主人公が生きているから成立する世界＝あなたという存在が組み込まれている世界」でもある。

まあ、簡単に言えば、主人公（あなた）が見ている、生きている世界だけじゃないよね？　ってこと。

サブキャラたちも今作の世界で自分たちなりに生きていた！

そこで、今回は、これまで今作に登場したサブキャラクターたちの “いま” が盛り込まれたのを、大いに評価したいのだ。

養護教諭の佐久間（木村文乃）の話から、2024年10月22日放送の第3話に登場した、過換気症候群やリストカットの経験がある松谷真耶（菊地姫奈）が介護職に従事しているような写真で描かれた。

全員を列挙するのは、やめておくが。

青年時代高校に通えなかったため、学び直すために定時制に入学した長嶺省造（イッセー尾形）の妻で、長らく病気を患い入院していたが今は自宅療養中の江美子（朝加真由美）。

藤竹のクラスの生徒で、キャバクラで働くシングルマザーの庄司麻衣（紺野彩夏）。

いまは定時制科学部のオブザーバー的な存在となった、全日制のコンピューター部の部長・丹羽要（南出凌嘉）。

中でも、うまいなと感じたのは。

科学部の記録係で、起立性調節障害を抱え、保健室登校を続けていた名取佳純（伊東蒼）の姉で、学歴主義の母の期待に必死に応えるあまり、自分勝手な妹に冷たく当たっていた円佳（伊礼姫奈）を、発表の練習に関わらせる展開で、姉妹愛の修復を盛り込んだ。

レギュラーで登場するキャラクターではないが、過去に係わりを持った彼ら彼女らが登場することで、＜画面に映っていないところで、藤竹や岳人たちを見守り、応援していた＞　と分かるのだ。

そう、簡潔に言うなら、キャバ嬢の麻衣も、コンピュータおたくの要も、キツイ姉の円佳も、“今作の世界で自分たちなりに生きていた” と見えるのだ。

こんな簡単なことだが、できていない連ドラが山ほどある。

だから、熱く語りたくなるのだ。

「素人の質問」も「食えん男」も、ず～っと今作中で生き続けていた

もちろん、岳人の「出たぞ　素人の質問」における省造のお約束キャラにしても。

次の終盤での、藤竹と省造のやりとりだって。

省造「あんた　彼に連絡したのか？」
藤竹「ただ　大会見に来たほうがいいよって
　言っただけです」
省造「相変わらず　食えん男だな」

これは、10月29日放送の第4話の下記のやりとりの引用だ。

藤竹「策士ですね 奥様」
　（中略）
省造「あんた食えん。妻より食えん」

そう、第4話から “妻より食えん男” も、ず～っと今作中で生き続けていたってことなのだ。

言葉遊びとしても、雰囲気づくりとしても、そして連ドラとしても、お見事だ！

長回しで「教師と生徒の壁」を映像で提示しつつ…

せっかく『ディレクターの目線blog』にお越しいただいているのだから、ちゃんとディレクターらしい視点での感想も書いてみよう！（笑）

今回で、皆様に「ここだけは注目して！」が幾つかあった。

例えば、前述の廊下で電話する藤竹と、教室内で藤竹の異変に気付く岳人もそうだし。

14分ごろ、夜の科学部部室に忘れ物を取りに戻った岳人が、藤竹とのやり取りを済ませて、部室を出ていくカットだ。

ホワイトボードの前に座る藤竹の引きのカットで、カメラが下手（画面左側）に向かってゆっくりパン（向きを変える）とカメラが壁をまたいで、廊下に立つ岳人の後ろ姿が廊下の奥に歩いて行き、フェードアウト（暗転）する。

ワンカット、約30秒間の長回しによって、「教師と生徒の壁」を映像で提示した上で。

それと並行して、壁だって延々と続くものではなく、「隙間や裂け目」「途切れや割れ目」、そしてこの映像のように「抜け道や開口部」があって、壁と言えどもどうにでもなることを、壁をまたぐカットで表現しているのだ。

岳人のスピーチに最初に拍手を送ったのは名もなき登場人物

もう一つだけ、注目してほしい演出がある。

31分ごろ、壇上の岳人がスピーチを終えて、一礼すると、会場から拍手が起こる場面だ。

ここ、誰が最初に拍手をしたか気づいただろうか？

まあ、普通の演出でやりがちなのは、まず藤竹、次は藤竹の親友・相澤、その次は省造あたりだろう。

しかし、チーフ監督・吉川久岳氏が選んだ（脚本によって指定されている可能性もあります）のは、客席の最前列に座る一人の男性エキストラ（名もなき登場人物）だったのだ。

©NHK

白い丸印の中の彼の小さな拍手が、会場全体の呼び水となって、大きな拍手の波になっていく。

これ以上書くのは無粋だが。

7年前、藤竹が名京大学で助教をしていた時の上司で、現在は名京大学の教授の他に国の科学政策振興委員の委員長も務める “業界の有名人” である石神怜生（高島礼子）を棒立ちにさせる若き科学者のひとりとして…

完璧なスピーチをやってのけた岳人と定時制科学部に対して、最初に拍手を送ったのが…

身内や役職のあるキャラクタではなく、名もなき登場人物であることに、ホワイエで岳人のスピーチが途中で止まったことの理由を語る場面にリンクしていくのだ。

岳人「あれは言うことが
　飛んじまったわけじゃねえよ。
　目の前にいる大人も学生も
　俺たちの話を本気で聞いてくれてる。
　肩書も見た目も関係ねえ。
　俺たちを認めてくれたんだって。
　そしたら急に
　終わりたくねえって思ったんだよ」

そう、「目の前にいる大人も学生も」の映像化こそが、あの最前列の男性なのだ。

そして、最後は、岳人のスピーチの結びの言葉に呼応する展開だ。

岳人「一緒に考えてください。お願いします」

もちろん、この言葉にさらに反応するのが、藤竹に誘いを断られた JAXAの相澤だというのだから、何とも心地よいではないか！

あとがき（その1）

最終回のサブタイトルは『消えない星』でした。

今作の主題歌、Little Glee Monster『Break out of your bubble』で、ラストに引用されていた歌詞がこちら。

♪丸裸の心に灯り出す光
　消えないように包みこんで
　戻らない昨日よりも
　僕らが映したいのは

　あるがままの姿で
　歩き出す未来
　描くことから始めよう

　選ばなかった全て
　捨てた今の僕なら
　僕を生きていけるから (oh)

ちゃんと、「本編」と「主題歌」も呼応し合っていたわけです。

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あとがき（その2）

作品名や事前の番組宣伝の印象から、「科学を扱うの？」「小難しいのかな？」「説教臭くない？」なんて、食わず嫌いで遠のいた人は多かったと思います。

ただ、少なくとも、私と当ブログは、きっと “小さくても輝く星” であると信じて（何の根拠もないですが）ひたすら応援したことで、少しは見始めた人が増えた実感はあります。

やはり、歌詞にもあるように「描く（書く）ことから始めよう」だと思いました。

あとがき（その3）

科学や数学、実験や証明に不可欠なのは、「理性」「再現性」「正確性」「批判的思考」「創造性」「透明性」「倫理性」「継続性」だと考えます。

これらの、一見ちょっと小難しい単語、言葉を、今作ではそれぞれの登場人物や関係性の中での「心の通い合い」「心情の交差」「感情の伝搬」に照らし合わせて描いたと感じます。

もちろん、科学、天文学、数学（統計学）的な要素も、理数系が苦手な人にも分かりやすく解説されていたのも、NHKのドラマらしくて好感を持ちました。

また、キャスト、スタッフの皆さんにも、ドラマの面白さをまた教えてくださって感謝しかありません。

最後に、たくさんの応援もありがとうございました。

これで、安心して原作を読めます。
皆様も買って読んでみてはいかがですか？

下の写真は、我が家（千葉県北西部）の昨夜の空に見えた『消えない星』の写真です。
来週には今年最後の満月になります。

★すべての読者様に愛と感謝の “ありがっとう!!”

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