連続テレビ小説「ばけばけ」 （第32回・2025/11/11） 感想

NHK総合・NHK BS・ﾌﾟﾚﾐｱﾑ4K／連続テレビ小説『ばけばけ』
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第32回／第7週『オトキサン、ジョチュウ、ＯＫ？』の感想。

※ 毎日毎日の感想なので、私の気分も山あり谷ありです。ご理解を。
※ また、称賛、絶賛の感想だけをご希望の方は読まないほうが良いです。

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ヘブン（トミー・バストウ）の女中として初日を迎えたトキ（髙石あかり）。自分がラシャメンかもしれず、家族にも言えないままヘブンの家に向かうトキを平太（生瀬勝久）、ツル（池谷のぶえ）、ウメ（野内まる）の花田旅館の面々が出迎える。トキの覚悟を応援したいと、ウメもトキと一緒に働き、トキとヘブンが２人きりにならないようにすると勇気づける。みんなの気遣いに感謝しながら、恐怖と緊張の中、トキの女中生活が始まる。
------上記のあらすじは、公式サイト等より引用------

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原作：なし
脚本：ふじきみつ彦（過去作/ﾊﾞｲﾌﾟﾚｲﾔｰｽﾞ,きょうの猫村さん,一橋桐子の犯罪日記）
演出：村橋直樹（過去作/まれ,透明なゆりかご,ｻｷﾞﾃﾞｶ） 第1,2,5,7週
　　　泉並敬眞（過去作/ｽｶｰﾚｯﾄ,ｶﾑｶﾑｴﾌﾞﾘﾊﾞﾃﾞｨ,ﾌﾞｷﾞｳｷﾞ） 第3,6週
　　　松岡一史（過去作/まんぷく,心の傷を癒すということ,ｶﾑｶﾑｴﾌﾞﾘﾊﾞﾃﾞｨ） 第4週
制作統括：橋爪國臣（過去作/青天を衝け,あなたのﾌﾞﾂが､ここに,ﾌﾞｷﾞｳｷﾞ）
音楽：牛尾憲輔（過去作/ﾁｪﾝｿｰﾏﾝ,僕の心のﾔﾊﾞｲやつ,ﾀﾞﾝﾀﾞﾀﾞﾝ）
主題歌：ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
土曜日版ナレーション：北郷美穂子（NHK大阪アナウンサー）
副音声解説：山崎健太郎（過去作/舞いあがれ!,らんまん,ﾌﾞｷﾞｳｷﾞ,虎に翼,おむすび）
タイトル写真：川島小鳥（過去作/未来ちゃん,SHISHAMOｱｰﾄﾜｰｸ）
タイトルロゴ：西沢和樹（instagram.com/nishizawa_k/）
プロデューサー：田島彰洋,鈴木航｜美術：山内浩幹、淀裕矢、向理沙、有本弘｜美術進行：澤幸樹、嶋原広起｜技術：増田徹、備中正幸｜音響効果：松本有加、巽浩悦、吉田亜矢｜撮影：岩崎亮、関照男｜照明：根来伴承、大西弘憲｜音声：吉竹淳樹、稲垣雄二、大成友二｜映像技術：前田惇徳、原幸介、山下健、若嶋なな｜カラーグレーディング：原幸介、前田惇徳、山下健、日野維乃、若嶋｜VFX：西垣友貴、神戸大樹、山田茂人、北島規｜CG：大西智子、空閑卓海、古市百人、佐藤望、田邊亮哉｜美術進行：澤幸樹、嶋原広起、大塚良子｜装置：佐藤千織、坂口大吾、山中宏華｜装飾：津村政幸、横田浩之、長洲史雅｜特殊効果：奥村陵、宮崎真有｜衣装：横山智和、中村みのり、鍛元美佐子、横山智和｜メイク：堀洋子、正田早百合、秋山直美、櫻井安里紗｜持道具：楠正由貴、森上陽子｜かつら：松本誠也、丹波峯子｜特殊メイク：江川悦子、権田日和｜特殊メイク協力：荒井律子、大谷美咲、山埼佳子｜助監督：小林直毅、小島東洋、田中陽児、早川俊介、岡本拓大｜制作担当：木村晴治、長岡しのぶ、本田良太、森岡あゆみ、片山哲治｜取材：川野秀昭、鈴木航｜編集：藤澤加奈子｜記録木本裕美｜時代・風俗考証：刑部芳則｜松江風俗考証：藤岡大拙｜出雲ことば指導：多々納斉｜所作指導：藤間豊宏｜料理指導：広里貴子｜英語指導：塩屋孔章｜英字指導：前田祐加｜眼科指導：大路正人｜怪談ばなし指導：玉田玉秀斎｜茶道指導：有澤一男｜三味線指導(タエ)：菊央雄司｜三味線指導(遊郭)：長江浩子｜アクション指導：中村健人｜日本画指導：諫山恵実｜造園：堤正和
※敬称略

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「深呼吸とため息だけが響く空間」を魅せる演出でないと…

「初めまして」の皆様も、ご常連の皆様も、管理人のみっきーです！
お仕事や学校の休憩時間や移動中の方、就職活動中の方、病気療養、子育て、介護など、それぞれの生活を送る読者の皆様…
私のブログをご訪問いただき、心から感謝申し上げます。
―――ここまで、ごあいさつ―――

前回の感想への「トキちゃんさん」のコメント…
https://director.blog.shinobi.jp/Entry/19959/#comment1

僭越ながら、次のように書かせていただいた。

俳優さんを信頼して「顔のどアップ」を使いたいのは理解しますが。
何事も、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」です。
ピンポイントで効果的にやってほしいです…

今回のアバンタイトルの‘出だし’がまさに‘それ’である。

今作の脚本がこのアバンタイトルで描こうとしているのは、明らかに下記の状況なのでは？

《深呼吸とため息だけが響く空間──緊張の中、初仕事という名の誰にも聞こえない決意が、トキの中で今、動き出す》

「本編」をよく見れば分かるが、朝餉(あさげ)がのどに通らずしじみ汁も残したトキを演じる髙石あかりさんは、「ごちそうさま」の直前にちゃんと “音のないため息をつく” お芝居をやっているのだ。

だったら、この場面での演出の最適解は、劇伴もつけず、妙な効果音も入れない “無音という音の世界” で “トキの心境” と、娘を気遣う “母の気持ち” なのでは？

きっと、今週の演出担当で今作のチーフ監督である村橋直樹氏が‘この劇伴’がお気に入りなのかもしれない（前回も強調していましたので）。

でも、推しの俳優さんを信頼して「歩いてくる顔のアップを真正面から撮る」を使いまくるのも、お気に入りの劇伴をあちこちに貼り付けるのも、適材適所であり「過ぎたるは猶及ばざるが如し」なのだ。

チーフ監督が演出の基本のキを見誤るようでは困る…　のである。

平行四辺形の構図がさりげなく“日本文化”も表している

どうやら、村橋氏は‘好み’は抑えられないが、冷静に作り込むところはしっかりと‘できる’ようである。

例えば、松野家を出たトキが橋を渡って立ち止まるカット。

©NHK

上図↑のように複雑な平行四辺形が混在する構図の真ん中にトキを配置している。

一般的な演出における図形を用いた構図上の心理的な意味付けは次のようになる。

　●三角形：緊張・方向性・力の集中
　●正方形：安定・秩序・信頼
　●円形：包容・調和・柔らかさ
　●平行四辺形：流れ・モダン・抽象・緊張と安定の両立

まずは「平行四辺形」に限定して、構図上の心理的な意味付けを解き明かしてみる。

●動きと傾きの暗示
　・「傾いた四角形」と認識して動きや流れを感じさせつつ、視線を斜めに誘導する力が強いため画面にダイナミズム（迫力や期待感）を与えることができる。

●安定と不安定の境界
　・四辺が閉口なので構造的に安定しているが、傾き次第で視覚的な不安定さを与えるのが容易なため、「安定と不安定のあいだ」のバランスが、緊張感や洗練された印象を生む。

●視線誘導と方向性
　・視線が「傾きの方向」に流れるため視覚的な導線として使いやすく、今回は左下方向（絶望や敗北感を表す方向）へ誘導している。

例えば、日本の絵巻（例：『源氏物語絵巻』）では、建物の内部を見せるために屋根を斜めに切り取る「吹抜屋台」構図が使われ、空間の奥行きや視線の流れを自然に誘導している。

©和樂web

こうして見ると、この平行四辺形の構図がさりげなく “日本文化” も表していることが分かると思う。

朝ドラとしてこれくらいコミカルがちょうどいい塩梅では？

いまだに「随所にある現代調のやり取りや表現が気になってしょうがない」な人がいるようだが。

そもそも、あのNHK『大河ドラマ』だって最近は「これが時代劇？」な表現はあるわけで。

私は、様々な環境や状況下の老若男女問わずの視聴者が朝から安心して楽しめる朝ドラとしては、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」の範囲内で、ある程度は自由に描いてよいと思う。

その意味で、劇伴や効果音（鳥の声など）があってすでに「過ぎたる」状態ではあるが、それでも花田旅館に突然父・司之介（岡部たかし）がやって来たくだりでの、トキの言動含めた “現代チックな表現” も悪くないと思う。

いやむしろ、［史実］を鑑みても非常に重苦しい状況なのだから、朝ドラとしてこれくらいコミカルがちょうどいい塩梅だとすら思う。

まあ、正直言えば、髙石あかりさんのリアクションに対する村橋氏による演技指導は「過ぎたる」だと思うが（苦笑）

「三角形形」の構図上の心理的な意味付け

場面変わって、トキが初めて “住み込み女中” として「ヘブン邸」を訪れる際の構図（下図）も、平行四辺形の構図（に、後述する三角形の構図も重なる）である。

©NHK

そして、ウメ（野内まる）が花田旅館に一時戻って、和室にトキとヘブン（トミー・バストウ）だけになったカットは、三角形を強調した構図に変わった。

©NHK

今度は「三角形形」に限定して、構図上の心理的な意味付けを解き明かしてみる。

●安定感と秩序の象徴（正三角形・底辺が広い三角形）
　・重心が低く安定した印象を与えピラミッド型は中央に配置すると、荘厳さ・静けさ・信頼感を演出できる。

●集中と視線誘導
　・三角形の頂点（ほぼトキの座位置）が視線の集約点となり、視聴者の視線を自然に誘導し、底辺（ヘブンの座位置）から頂点へ向かう流れが、物語性や階層構造を暗示する。

もちろん、逆三角形や傾いた三角形の構図の場合は、不安定で緊張感の印象を与えたり、動きや不安、圧迫感を表現する際に効果的だ。

『ばけばけ』流の《マイペースな女の子》の魅力的な描き方

さて、この「平行四辺形の構図」で始まり「三角形の構図」につながった《トキの女中生活の始まり》で、気になったことと分かったことがある。

それは、予想以上に、いや期待以上にヘブンが “ラストサムライの孫＝士族の娘” であることを気にしないことであり。

いうなれば、願って大金を払って雇った “住み込み女中” の割に、気にする素振りがない描写になっていることだ。

だって、一般的に考えれば、天国遊郭で遊女たちを見てはしゃいだときのヘブンみたいに盛り上がってもよいと思うのだ。

もちろん、「これから次第に…」の可能性はあるが、あまりに “気にしなさすぎ” に見えてしまったのだ。

でも、ここで「三角形の構図」の意味を思い返してみよう。

あの「三角形」は底辺すら強調しない「ずっしりと構えた裾が広い三角形」すなわち「この上ない安定感と秩序の象徴」だったのだ。

そして、今作は放送前から脚本家らが「何も起こらない物語」と称されている。
　※出展：小泉セツ・八雲夫妻をモデルに「何も起こらない」物語を。連続テレビ小説「ばけばけ」脚本家・ふじきみつ彦さんインタビュー | NHK出版デジタルマガジン 

よって、天国遊郭の遊女たちでやったことを「二度は描かない」で、あくまでも「恐怖と緊張の中でのトキの女中生活」をこつこつと積み上げていくだけなのかも？　と思うのだ。

そう考えれば、「フトン」でドキドキしてホッとして、出勤を見送って縁側であおむけで寝そべって…　こそが『ばけばけ』流の《マイペースな女の子》の魅力的な描き方であると思える。

これが当たっていれば、なかなかに手ごわい朝ドラである…

だって、「騒動がない」のだから。

なかなか興味深い「住み込み女中編の序章」

演出の解説が長くなったので、感想をまとめよう。

今回、なかなか興味深い「住み込み女中編の序章」だと思って見た。

トキが “既婚者” であることも、ヘブンのペンの音が止まる恐怖心を助長するのに寄与していたし。

で、わざわざ書くことはないと思うが、一応共通認識として書いておく。

「あまりトキを“士族の娘”であることを強調しない」意図

今作において「住み込み女中＝ラシャメン」という価値構造になっている。

「ラシャメン（羅紗緬）」とは、幕末から明治にかけて、もっぱら外国人相手の遊女、あるいは外国人の妾となった女性を指す蔑称だ。

そして当然のこととして、『ばけばけ』での「住み込み女中」が「ラシャメン」と重ねられているのは、単なる家事労働者ではなく、外国人男性の生活全般、つまり “日常の世話から夜の相手までを含む存在” として描かれている。

これは、明治期の外国人居留地において実際にあった「ハウスメイド兼コンパニオン（性的関係を含む）」という実態を反映していると思われる。

とくに小泉八雲（ラフカディオ・ハーン）のような外国人知識人が日本女性と生活を共にする例は、当時の文学や記録にも多く見られる。

例えば、ドイツ人農芸化学者のオスカル・ケルネルは士族の娘・川瀬トメノを妾に迎え、後にその妹と正式に結婚。
妹は尼僧だったが、還俗してケルネルと家庭を築いたとされる。
　参考：お雇い外国人ケルネルと日本人妻に関する明治時代の新聞記事をめぐって｜植物鉄栄養研究会 

しかし前述したとおり、今作は「あまりトキを “士族の娘” であることを強調しない」をやっている。

その意図、意味は何なのか？

史実を、トキという人物の主体性や変容の物語として再構成

私は「“士族の娘” 以外の要素を強調したいからではないか？」と思うのだ。

単なる歴史的再現ではなく、以下のような批評的意図を含んでいる可能性があると思う。

●ジェンダーと階級の交差点
　・トキが「女中」であることと「性的対象」であることが切っても切れないものに描かれることで、女性の労働と身体がどう搾取されていたかを浮き彫りにする見通し

●異文化接触の非対称性
　・外国人男性と日本人女性の関係が、対等な恋愛ではなく、しばしば権力関係に基づいていたことへの批判

●「ばける」ことの多義性
　・トキが「ばける」＝変身する存在であるならば、ラシャメン的役割もまた彼女の仮面の一つであり、そこに込められた痛みやしたたかさを描こうとしている可能性

やはり今作は、単純に史的リアリティを踏まえて再現を描くだけでなく、トキという人物の主体性や変容の物語として再構成しているように思うのだ。

あとがき

個人的には、「女中」であることより「性的対象」になることを今回以上に強調しないほうがよいと考えます。

もちろん、そっちのほうが世間的にはウケそうですけど。

やはり、今週で描くべきは「トキがヘブンの女中であることが家族にバレるのか？」と「物乞いとなったタエ（北川景子）の存在が家族に知られてしまうのか？」だと思います。

まっ、明日までは「性的対象」を引っ張って、木曜日と金曜日で回収してくれれば良いですけど。

そしてチーフ監督には、もう少し個人的な好みは抑え気味でお願いしたいですね。

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