季節のない街 （第8話・2024/5/24） 感想 ※重要な追記あります

2024/05/26 10:20 記事更新

テレビ東京系・ドラマ25『季節のない街』
公式リンク：Website、X(旧Twitter)、Instagram

第8話〔全10話〕『がんもどき後編』の感想。

なお、原作(小説)である山本周五郎『季節のない街』は既読。
また、2023年8月9日より、Disney+で全10話配信済みですが、そちらは未鑑賞。
しかし、名匠・黒澤明監督の不朽の名作映画『どですかでん』（東宝/1970年）は、数十回鑑賞済みで、Blu-rayも所有します。
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街での再会以後、再び半助との距離が縮まった永田（佐津川愛美）は半助（池松壮亮）の家に出入りするようになる。街の住人たちは下世話な想像を膨らませるが、半助はたんばさん（ベンガル）に「彼女にはひどいことをしたから復縁はない」と過去を明かす。
その頃、退院してすっかり体調のよくなった妙子（広岡由里子）は、銭湯に行ってかつ子（三浦透子）のある異変に気付く。かつこが抱える悩みに気づかず、いつも通り明るいオカベ（渡辺大知）のもとに現れたかつ子は誰もが予想しない行動に…。
---上記のあらすじは、公式サイト等より引用---

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原作(小説)：山本周五郎『季節のない街』
企画：宮藤官九郎（過去作/初企画作品）
脚本：宮藤官九郎（過去作/あまちゃん,俺の家の話,不適切にもほどがある!）
演出：宮藤官九郎（過去作/木更津ｷｬｯﾂｱｲう,ぬぼれ刑事） 第1,2,4,5話
　　　横浜聡子（過去作/ﾊﾞｲﾌﾟﾚｰﾔｰｽﾞ2017､2018,ひとりｷｬﾝﾌﾟで食って寝る） 第3,7,8話
　　　渡辺直樹（過去作/いだてん~東京ｵﾘﾝﾋﾟｯｸ噺~,映画｢ﾄﾞﾗｲﾌﾞﾏｲｶｰ｣助監督） 第6話
ＣＰ：濱谷晃一（過去作/警視庁ｾﾞﾛ係ｼﾘｰｽﾞ,ｼﾞｬﾝﾇの裁き）
撮影：近藤龍人（過去作/映画｢万引き家族｣,映画｢ある男｣,映画｢怪物｣）
美術：三ツ松けいこ（過去作/映画｢海街diary｣,映画｢溺れるﾅｲﾌ｣,映画｢万引き家族｣）
衣装：伊賀大介（過去作/俺の話は長い,大豆田とわ子と三人の元夫,17才の帝国）
音楽：大友良英（過去作/あまちゃん,いだてん,しもべえ,ﾄｸﾒｲ!警視庁特別会計係）
※敬称略

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メインの３人のキャスティングの "いい意味で” の違和感

「初めまして」の皆様も、ご常連の皆様も、管理人のみっきーです！
当ブログに来てくださり、ありがとうございます。

【基本情報】
　●原作(小説)は、既読。
　●Disney+で全10話配信済みは、未鑑賞。
　●同じ原作の黒沢明監督『どですかでん』は、大好き！
　※原則、原作(小説)、映画とは比較、ネタバレやりません。

今作を見始めてから、ずっと気になっていたことがある。

それは、メインの３人のキャスティングの “いい意味で” の違和感だ。

その３人が、半助（池松壮亮）、タツヤ（仲野太賀）、オカベ（渡辺大知）だ。 なぜ、いい意味での違和感なのか？
それは…

半助、タツヤ、オカベの３人、池松壮亮さん、仲野太賀さん、渡辺大知さんの誰がどの役を演じても、あまり違和感がないと思う… という違和感だ（笑）

でも、この第8話を見て、なんて絶妙な配役なのか！ と思うのだ。

企画と脚本の宮藤官九郎さんにどこまでの権限が与えられているのか分からないが。

第8話まで進んで、ようやく、オカベ役を渡辺大知さんが演じるべき理由が見えた。

原作(小説)とも映画『どですかでん』にもない設定である、今作だけの「オカベはギターを弾く」のためだったのだ。

いいや、それだけではないと思う。

私の渡辺さんに対する強いイメージは、田口トモロヲ監督の映画『色即ぜねれいしょん』（2009）での、ボブ・ディランを尊敬してロックな生き方を探す主人公「乾純」があるのだが。

そのころから、彼の魅力は、内面から湧き出る人懐っこさと、満面の笑みなのに、どこかに恥じらい（はにかみ）と、泣きべそ（悲しみ）が共存している佇まいだ。

その、“笑顔なのに泣き顔” こそが、今作の “オカベ” に絶対の必要条件だと思う。

だって、オカベはレギュラーの登場人物中で、数少ない “仮設に住まない部外者” であり、“仮説に友達がいる部外者” という異色の孤独感を背負ったキャラクターだ。

だから、感情に起伏が少なめな半助とも、喜怒哀楽がハッキリしているタツヤとも違う、笑っているのに泣いているオカベに最高に似合っていることに、今さら気づいた… というわけだ。

一応ご存じでない方のために補足しておくが。

渡辺大知さんは、2018年に解散したロックバンド「黒猫チェルシー」の元ボーカルで作詞担当だったから、作詞や弾き語りはお手の物なのだ。

横浜聡子氏の演出に "登場人物への優しさ" を感じたカット

今回の演出担当は前回に続いて横浜聡子氏だ。

第3話の際も、前回も書いたが、横浜氏の演出アプローチが私の好みと違う。

それが悪いというつもりはなく、ただ違うから気になるのだ。

で、今回で気になったというか、横浜氏の “登場人物への優しさ” を感じたのが、かつ子（三浦透子）がオカベの腹をナイフで刺す回想シーン。

映画版でどうなっているのかは書かないが、冷酷な私ならオカベが持っている誕生プレゼントの上から刺したように見せると思う。

そのほうが、かつ子の行動原理が分かりやすいし、オカベの切なさが強調され、エンディングとの相乗効果を期待できるから（ここは、後述する）

でも、横浜氏はナイフが刺されたのが紙袋越しなのか曖昧な表現で終わらせた。

ここは、繰り返しになるが、私は袋越しのほうが最適解だったように思う。

もちろん、真っ向から否定するつもりはない。

むしろ、オカベの好意を知っているかつ子の心情のほうに強く寄り添えば、袋越しには描かないし描けないとも思う。

そっち側の判断だったと思う… だけの話である。

もちろん、ラストシーンで、かつ子がプレゼントの服を商品タグをつけたまま着て歩くくだりがあるから、袋の上から刺せない事情はあるとしても… の意味でも。

クドカンの優しさが溢れた半助が元カノへのボソのセリフ…

一方で、脚本担当の宮藤官九郎氏の優しさを垣間見られるのが、後半に入って半助が半助の元カノ（佐津川愛美）にぽろっとこぼした次のセリフだ。

半助「後ろ向きの自分に
　後ろ向きになったら
　前向いてた かな？」

後ろ向きだった人間が前向きになるのは、かなりしんどいし、エネルギーがいることだ。

でも、後ろ向きの人が自分が得意の後ろ向きになれば、気がついたら前向きになっているとは、言い得て妙だ。

俗にいうネガティブ（物事を悪い方向に考えること）な人がポジティブ思考になるのは、キッツイが。

ネガがネガティブに考えたら、気づいたらポジになっていたと考えるのは実に面白い。

もちろん、簡単なことではないが、劇中の主人公・半助にとっては “さも簡単” として描かれている。

そう、ここにクドカンの愛を感じるのだ。

今でも日本中に自然災害等で被災している人がたくさんいるし、知り合いや関係者を含めたら数えきれない。

でも、そのうちの一人でも “気がついたら 前向いてた” が叶うとしたら、日本中の ＜季節のない街＞ の季節も変わると信じたい…

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宮藤官九郎氏が、この実写ドラマ版で最も描きたかった場面

きっと、原作(小説)である山本周五郎『季節のない街』が大好きで、名匠・黒澤明監督の不朽の名作映画『どですかでん』（東宝/1970年）をリスペクトしてやまない宮藤官九郎氏が、この実写ドラマ版で最も描きたかった場面が次のシーンだと確信を持った。

原作にも、映画版にもない、オリジナルなシーンだ。

それが、終盤の中ほどにあった、オカベがかつ子に自分の腹をナイフで刺した理由を問い詰めるシークエンスの次の場面だ。

夕景の土手に座って、オカベがフォークギターで隣に座るかつ子に、泉谷しげるの日本のフォーク界の金字塔的名曲『春夏秋冬』（1972）を弾き語り始める。

♪季節のない街に生まれ
　風のない丘に育ち
　夢のない家を出て
　愛のない人にあう

まず、この『春夏秋冬』で繰り返される名フレーズに「季節のない街」があるのだ。

オカベの笑顔が、次第に泣き顔に変容していく。

すると、かつ子がオカベの歌にハモって入ってくる。

♪今日ですべてが終るさ
　今日ですべてが変わる
　今日ですべてがむくわれる
　今日ですべてが始まるさ（繰り返す）

そして、今回、いや今作、最大の、最高のセリフが次のオカベのひと言だ。

オカベ「ごめん 勝手に ハモんないでくれる？」
かつ子「ごめんなさい」

ここ、映像をよく見ると分かるが、渡辺さんがセリフを言っている最中の顔は笑顔だが、話し方はオカベのキャラにしてはキツめになっている。

で、さらに、映像をよく見ると、かつ子がセリフを話すまでの “間” だけ、キツめに言った自分にオドオドしているように見えないだろうか？

そして、その場を繕うように、ポケットからチョコレートを渡すが、かつ子は ＜この場に及んで＞ も次のように言う。

かつ子「食べると ニキビになるから…」
オカベ「はや… はっ 早く言ってよぉ！」

刺されるまでのオカベは、常に笑顔でかつ子に接してきた男だ。

でも、季節のない街に暮らしていないオカベが、季節のない街の住人のことを慮ってきたのに、かつ子の言動によって、ちょっぴり変わってしまったのだ。

オカベは必死に笑顔でかつ子に接するし、かつ子も何もなかったように接するが。

でも、オカベのほうが確実に、愛情と嫌味が入り混じって「かっちゃんのおかげで、ぼくちょっぴり変わっちゃったよ」なのだ。

＜季節のない街＝仮設住宅のある地域＞ を、かつ子を温かく迎え入れた ＜街の内側＞ に住む人たちで描く一方で。

＜季節のない街の外＞ から見た風景を描いた、この『がんもどき 前後編』は、クドカン流＆クドカン解釈の新しい ＜季節のない街＞ になったと思う。

あとがき

偉そうに書いちゃいますけど…

やっぱ、クドカンの創作力って半端ねえな！ って。

きっと、原題の『季節のない街』から、企画発想段階で泉谷しげるさんの『春夏秋冬』は思いついているはずです。

そうでないと、連ドラとして、この構成、絶対に思いつきませんからね。

それに、絶対に原作の『がんもどき』で『春夏秋冬』を歌わせるのも決めつけでしょう。

でも、『がんもどき』でオカベが『春夏秋冬』を歌唱しちゃうのはベタすぎて、恥ずかしかった…

だから、かつ子が自分の応援歌ぶってハモってきたことに、ちょっとムッとしちゃうくだりを消臭剤にして、羞恥心をマスキングしたのでは？

これを評価するかしないかで、今作もクドカン作品への評価も違ってくると思います。

お～っと、全部、私の推測、妄想ですのでご理解を。

お願い

下でもお願いしておりますが。

私、今回が初鑑賞なので、ネット情報も全部シャットアウトして満喫中です。

ホント、ネット上では常識なことでもネタバレ等はお控えくださいませ。

見終えてから、自分で探すネットリテラシーくらいはありますので（汗）

（注）「Disney+で全10話配信済み」のネタバレのコメント、お控えください。

--------------------------  ここから追記  --------------------------
【追記 2024/05/26 10:20】
上で書いた私の推測ですが、ほぼ当たっていました。
その記事が下記になります。 まずは、ご紹介まで…

「一番やりかったのは8話のシーン」　宮藤官九郎と渡辺大知が語るドラマ「季節のない街」 - 産経ニュース 
--------------------------  ここまで追記  --------------------------

宮藤官九郎 企画脚本演出のドラマ「季節のない街」(第8話)の感想での推測、かなり正解でした(嬉) 

★すべての読者様に愛と感謝の “ありがっとう!!”

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拍手コメント返信（2024/5/24）その2：虎に翼（第40回）※今週と来週が「寅子の人生の第一章」の壮大なエピローグ？

ご来訪の上、拍手とコメントをありがとうございます！

いつも ドラマや映画の感想へ、ご賛同のWeb拍手やコメントをいただきまして、ありがとうございます。

時には厳しいコメントも頂きますが、ブログ更新の励みになっております。

なお、"Web拍手のコメント"へ返信をする機能がないため、このような「お返事ページ」でお返事をいたします（謝）

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[拍手投稿]  てぃわん さん  （2024-05-24 13:15:32）
連続テレビ小説「虎に翼」 （第40回・2024/5/24） 感想 

みっきーさん、こんにちは！ 素晴らしいレビューありがとうございます。

スピーディーに済ますところ（出産シーン、無事生まれてるんなら全然不要）は済ませ、重要なシーン（優三とのやりとり）はじっくりと。緩急のバランスが最高のドラマですね。

穏やかな暮らしでもトラ子の心は死んだようになっている・・さらに襲い掛かる赤紙。でもいかにものお涙頂戴演出はなく、変顔の応酬の別れに、逆に涙が止まりませんよ。

来週でトラ子の人生の第一章が終わるんですね。覚悟して観ます！

※当方にて適宜改行を入れさせていただきました。

↓ここから管理人返信↓

いやぁ、今日の感想は自分でいうのもなんですが「渾身の一作」です（笑）

緩急、メリハリは大切だと思います。

そして、その前段の「エピソードの取捨選択の正しさ」こそが、今作、今回の最大のポイントだったのではないでしょうか？

もう、こうなったら「一を聞いて十を知る」ができる “賢い視聴者向け” に、研ぎ澄まされた朝ドラを目指してもらいたいくらい。

きっと、今週と来週が、「寅子の人生の第一章」の壮大なエピローグであり、第二章のプロローグになるのではないでしょうか…

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連続テレビ小説「虎に翼」 （第40回・2024/5/24） 感想

NHK総合・NHK BS・ﾌﾟﾚﾐｱﾑ4K／連続テレビ小説『虎に翼』
公式リンク：Website、X(旧Twitter)、Instagram

第40回／第8週『女冥利に尽きる？』の感想。

※ 毎日毎日の感想なので、私の気分も山あり谷ありです。ご理解を。
※ また、称賛、絶賛の感想だけをご希望の方は読まないほうが良いです。

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寅子（伊藤沙莉）は訪ねてきた後輩の小泉（福室莉音）から、女子部が閉鎖されることになったと知らされる。今年は高等試験も行われないため、寅子たち女性法曹の道は途絶えてしまうことに。戦局が厳しくなる中、寅子は優三（仲野太賀）と娘・優未（ゆみ）と戦争を乗り越えることを最優先にしようと心に決める。しかし、とうとう優三の元にも召集令状が届く。
------上記のあらすじは、公式サイト等より引用------

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原作：なし
脚本：吉田恵里香（過去作/恋せぬふたり,生理のおじさんとその娘）
演出：梛川善郎（過去作/べっぴんさん,おちょやん,あなたのﾌﾞﾂが､ここに） 第1,2,4,7週
　　　橋本万葉（過去作/とと姉ちゃん,生理のおじさんとその娘） 第3,8週
　　　安藤大佑（過去作/とと姉ちゃん,となりのﾏｻﾗ,やさしい猫） 第5,6週
音楽：森優太（過去作/海の見える理髪店,あなたのﾌﾞﾂが､ここに,忘恋剤）
主題歌：米津玄師「さよーならまたいつか！」
法律考証：村上一博（明治大学 法学部 専任教授）
料理指導：赤堀博美（過去作/花咲舞が黙ってない,厨房のありす）
タイトルバック制作：シシヤマザキ（公式サイト ）
取材：清永聡（NHK解説委員:司法･事件･公文書管理･災害）
語り(本編)：尾野真千子（過去作/ｶｰﾈｰｼｮﾝ,長谷川町子物語,足尾から来た女）
語り(土曜日版)：山下誠一郎（過去作/Eﾃﾚ｢小雪と発酵おばあちゃん｣）
副音声解説：山崎健太郎（過去作舞いあがれ!,らんまん,ﾌﾞｷﾞｳｷﾞ）
制作統括：尾崎裕和（過去作/恋せぬふたり,鎌倉殿の13人）
※敬称略

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非公開コメントのご質問に、簡単に答えてみます…

「初めまして」の皆様も、ご常連の皆様も、管理人のみっきーです！
当ブログに来てくださり、ありがとうございます。

今回の感想の前に、非公開コメントで前回の感想へ質問をいただいたので、簡単に答えてみる。

生理痛や月経は描くのに、出産シーンがなかったことをどう思いますか？

結論から言えば、言葉遊びに聞こえるかもしれないが。

寅子にとって、腹を痛めて我が子を出産する「産みの苦しみ」よりも。

自分が女性法曹として認知され活躍するという夢を現実にする「生みの苦しみ」のほうが断然に意味も意義もあるから。

あえて「女性としての寅子が出産するシーン」を強調する必要はない… からだと思う。

従って、出産を強調しない（描かない）なら、妊娠中も出産直後も強調しない（描かない）のは筋が通っている。

因みに、漢字表記では、お母さんが赤ちゃんを「産む」は「出産の産の字」をつかい、赤ちゃんが「生まれる」まは「誕生の生の字」を使う。

もう一つの理由は、「生理痛」のことは令和でも まだタブーな話題であり、それを朝ドラで扱うことで社会的認知度を上げたいという、ドラマ『生理のおじさんとその娘』の脚本家と演出家、ドラマ『恋せぬふたり』の制作統括たちの意図があると想像する。

このことは書かずとも分かってくださっていると思い込んでいたから、質問をいただいて助かりました。

以上…

『虎に翼』「土スタ」で特集“寅子モデル”三淵嘉子 卒業の明治大から公開生放送▽伊藤沙莉＆仲野太賀が登場 

ちょっぴり的外れだと思う鳥の鳴き声のお話

本編の感想に入る前に、前回の続きで、ちょっぴり的外れだと思う鳥の鳴き声のお話だ。

前回で、キジバトの効果音によって直道（上川周作）が出征中の花江（森田望智）と、結婚したばかりの寅子（伊藤沙莉）に何か案ずるものがあると書いた。

そして、前回の終盤で時間経過してウグイスが鳴いた。

ただ、時間によって意味合いが違っており。

昼に鳴き声を聞くと、新しいことのはじまりなどを感じやすく、感情の変化を表すとされる。

正に、前回は感情の変化を象徴していたと思う。

でもって、今回の冒頭では、ウグイスと（多分）キビタキに似た鳥の鳴き声の効果音がつけてあった。

朝にウグイスの鳴き声を聞くと、成長を感じやすく、結果として旅立ちや別れを暗示するとされる。

ウグイスは、鳴き声を聞くだけで幸運が訪れるといわれる縁起のよい鳥だ。

ところで、キビタキの英名は、Narcissus Flycatcher（ナルキッサス・フライキャッチャー）。

ギリシャ神話のナルキッソス（Narcissus）と、ハエを捕まえる鳥であるフライキャッチャー（Flycatcher）が由来。

そして、ナルキッソスは、「ナルシスト」の語源で、自分の美しさに魅了されて水面に映る自分の姿を見続けたという神話上の美少年。

「一体、何の話？」と思うと思うが、少しあとで再登場するから覚えておいてほしい。

約4分10秒間もの長尺のアバンタイトルの構成も斬新

ここから、「本編」の感想だ。

「朝ドラらしからぬ朝ドラ」らしさといえば、約4分10秒間もの長尺のアバンタイトルの構成も斬新だ。

まず、2分強で寅子の、猪爪家の、佐田家の日常を淡々と描いた。

Ｎ「これでいいんだ。
　心に蓋をして忘れる… それだけです」

後輩の小泉（福室莉音）がわざわざ訪ねて来て。

明律大の女子部が閉鎖されようと、高等試験がなくなろうと、寅子の “引きこもり” は変わらない。

そんな日常に、夫・優三（仲野太賀）の元に召集令状が届く。

切ないのは、夫に赤紙が届くことが “非日常” でなく、“今の日常で普通のおめでたいこと” として生活の中に存在する現実だ。

"赤紙が届く前の夫婦の時間"と"赤紙が届いてしまった夫婦の時間"の対比

直言（岡部たかし）が家族会議で、優三のやっておきたいことを聞く。

優三「明日 少しだけ
　トラちゃんとお出かけさせてもらえたら」
寅子「えっ」
直言「そんなことで いいのかい？
　もっと ワガママ言ってくれても。なあ？」
はる「そんなことが いいんですよね」
優三「はい」

寅子、優三、娘・優未（ゆみ）が川の字になって寝ている。

そこに、ナレーションが被さってくる。

Ｎ「私は この人に
　何をしてあげられるんだろうか。
　いや 何かしてあげられたんだろうか」

「してあげられた」と過去完了形になっているのが、寅子らしいと思う。

いいや、出征していく夫の命のことを冷静に見ている寅子の切なる思いだ。

そして、短い時間だった “夫婦の時間” への無念さや、ほんのわずかな罪悪感みたいなものもあったと思う。

だから、「何かしてあげられたんだろうか」と「？」は付かないし、付けない。

この辺の、脚本の表記、尾野真千子さんの語りの演技も、今作らしい繊細な表現だ。

そして、召集令状が届いた時点でカットしてメインタイトル映像に進まずに、一気に夜まで描くことで（厳密にいえば少し違うが）「赤紙が届く前の夫婦の時間」にケジメをつけた展開もお見事だ。

これによって、メインタイトル映像明けは、「召集令状が届いてしまった夫婦の時間」が強調できるわけだから。

寅子はナルシストなのか？

メインタイトル映像明けは、アバンで曖昧にしてあった “寅子の罪悪感” を明確に描いてきた。

寅子「私 自分が
　弁護士として出世したいばかりに」

ここで、だいぶ前に書いた「ナルシスト」の話を思い出してほしい。

令和の現代は、孤独や孤立が深刻化しており、最近では「自己肯定感を上げていこう」なんて話題をよく目にするようになった。

そういう人たち、そういう社会では、ポジティブな考え方として、「ナルシスト」を自分を愛することや自己愛の表現として注目されているのをご存じでは？

最近の多くのナルシストの人は、「他社の評価を必要としない＝マジの自己肯定感」と位置付ける。

そして、自分に対しては「もっともっと褒めて！」の一方で、他人には「ぼちぼち短所に気づけよ!!」とやかましく催促する。

では、寅子はナルシストなのか？

私は、寅子はナルシストでないと見ているし、受け止めている。

確かに、「自分が 弁護士として出世したいばかりに」ではあるが。

寅子の行動原理、行動をする理由や意図は、全て “法の下の平等のため” と一貫しているからだ。

弁護士になった際も「もっともっと褒めて！」ではなかったし。

山田よね（土居志央梨）と対立しても「ぼちぼち短所に気づけよ!!」でなかったのが寅子なのだ。

だから、この場面では、アバンよりも鳥の鳴き声がごくごく小さいのだと思う。

昨今の朝ドラで、最上級クラスの感動のプロポーズシーン！

川辺のシーンは見ごたえ十分だ。

昨今の朝ドラ中で、最上級クラスの「感動のプロポーズシーン」とするのは大袈裟か？

日が落ちるのが速く、照明演出が難しい夕景で。

しかも、天候に左右されやすい川辺のロケ撮影で。

ここまで、丁寧に映像を作り込んだことが、まずスゴイ。

もちろん、演出も演技も、時間との勝負の中でよくぞここまでやり切った。 その上で…

寅子「おいしいものは一緒に」
優三「だね」

こういうのを、多くの視聴者の大好物である「伏線と回収」というのだ（笑）

5月21日(火)放送の第37回での川辺のシーンに次があった。

優三「嫌なことがあったら
　また こうして２人で隠れて
　ちょっと 何か おいしいものを 食べましょう」
Ｎ「人が恋に落ちるのは 突然です」

そう、「おいしいものは一緒に」は、寅子と優三が本当の恋人同士になった証しなのだ。

そして今回で、寝食を共にする… 本物の夫婦になったのだ。

あとのシーンは、細かく解説するのは無粋だからやらない…

性差とは別次元の"人と人との日常"が強調して描かれている

私は、ちょうど８週目の最後である今回を「寅子の第一章」の最終回として位置付けてみた。

そう位置付けると、今作が「朝ドラらしからぬ朝ドラ」であることの大きな理由が見えてくる。

一つは、「女性初の…」を描く作品であるから、当然 “女性” を強調しているわけだが。

それ以上に、性差とは別次元の “人と人との日常” が強調して描かれていると思うのだ。

例えば、今回の寅子と優三だが。

確かに、寅子の女性として、妻として、母親としての苦悩が強調されてはいる。

でも同じくらいに、優三の男性として、夫として、父親として、元下宿人としての苦悩も強調されている。

であって、不思議なくらいに「寅子が女性、優三が男性」は強調されていないのだ。

「出征するんだから、優三が男性なのは強調されているのでは？」は筋が違う。

このエピソードで必要なのは、出征する人、そのパートナー、その家族であって、性別は付随している条件でしかないのだから。

とにかく、今作が描こうとしているのは“法の下の平等” だから、この「第一章」では徹底的に、女性と男性の両性をバランスよく描くことに専念したと思うし

それが、ちゃんとできていたとも思う。

"時代"と"日常"を丁寧に描写している

もう一つ見えてきたのは、“時代” と “日常” を丁寧に描写していること。

男尊女卑の時代、戦争の時代… と、寅子にとって決して明かるい日々ばかりでない暗く辛い日常なのに。

今作ならではの、まるで一種のヒーローモノ、戦隊モノ風の、明るさや楽しさ、愛と正義、勇気と友情などで、“時代” と “日常” を朝ドラらしく見せて（show）魅せて（fascinate）いる。

この２か月間、本当に楽しませてもらった…

あとがき（その１）

騒動に頼らず、時代の中の日常を丁寧に紡いでいるだけですが、それでいいんですね。

奇をてらうことなく、時代を描けば自然と人は波に、渦に巻き込まれるものなのです。

そんな時代を描いているのですから、この調子で進めばよいと思います。

引き続き、当ブログは今作を応援します。

今週の「土曜日版」の編集も楽しみ…

それにしても、書くことが多くて、時間かかり過ぎます（大汗）

写真まで、手が回りません…

あとがき（その２）

終盤で、出征直前に、優三が子守をしている際に流れた歌入りの英語の歌、オリジナルだったそうです。

詳しくは下記。

本日放送のNHK連続テレビ小説『虎に翼』劇中歌にベル・アンド・セバスチャンのスチュアート・マードックが歌唱で参加 | Qetic 

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【これまでの感想】

第1週『女賢しくて牛売り損なう？』
1 2 3 4 5 土 
第2週『女三人寄ればかしましい？』
6 7 8 9 10 土 
第3週『女は三界に家なし？』
11 12 13 14 15 土 

朝ドラ「虎に翼」は、「戦隊モノ」でなく「和製アベンジャーズ」だと本気で思う理由 

第4週『屈み女に反り男？』
16 17 18 19 20 土 
第5週『朝雨は女の腕まくり？』
21 22 23 24 25 土 
第6週『女の一念、岩をも通す?』
26 27 28 29 30 土 
第7週『女の心は猫の目？』
31 32 33 34 35 土 
第8週『女冥利に尽きる？』
36 37 38 39 

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拍手コメント返信（2024/5/24）：VRおじさんの初恋（最終話）

ご来訪の上、拍手とコメントをありがとうございます！

いつも ドラマや映画の感想へ、ご賛同のWeb拍手やコメントをいただきまして、ありがとうございます。

時には厳しいコメントも頂きますが、ブログ更新の励みになっております。

なお、"Web拍手のコメント"へ返信をする機能がないため、このような「お返事ページ」でお返事をいたします（謝）

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[拍手投稿]  61歳の独身男性 さん  （2024-05-24 09:23:57）
夜ドラ「VRおじさんの初恋」 （第32話/最終話・2024/5/23） 感想 

このドラマが自分のこれまでの人生、そしてこれからの生き方を考えるのにすばらしいものになりました。

全部視聴して本当によかったと感じています。

※当方にて適宜改行を入れさせていただきました。

↓ここから管理人返信↓

全８週間ですから、少し長かったですが。
私も見てよかったです。

再放送で、一気見もしたいと思いました。

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夜ドラ「VRおじさんの初恋」 （第32話/最終話・2024/5/23） 感想

NHK総合・夜ドラ『VRおじさんの初恋』
公式リンク：Website、X(旧Twitter)、Instagram

第32話/最終話／第8・最終週の感想。

なお、原作(漫画)である暴力とも子『VRおじさんの初恋』は、既読。

---

ＶＲゲーム「トワイライト」はサービス終了を迎えようとしていた。直樹（野間口徹）はその終焉を見届けるため、一人ログインする。ホナミ（井桁弘恵）と初めて出会った高台にたたずむナオキ（倉沢杏菜）。そこに直樹が現れ、直樹とナオキはもう会うことが出来ない穂波（坂東彌十郎）とホナミとの思い出を振り返る。やがて、光が全てを包み込み、ＶＲ世界は終焉の時を迎えるが―
---上記のあらすじは、公式サイト等より引用---

---

原作(漫画)：暴力とも子『VRおじさんの初恋』
脚本：森野マッシュ（過去作/ｹの日のｹｹｹ）
　　　吉田照幸（過去作/脚本担当は朝ﾄﾞﾗ｢ｴｰﾙ｣の第4週のみ） 第5～最終週
演出：吉田照幸（過去作/あまちゃん,ｴｰﾙ,富士ﾌｧﾐﾘｰ） 第1,2,6,最終週
　　　桑野智宏（過去作/ｳｪﾙかめ,あまちゃん,おかえりﾓﾈ） 第3,4週
　　　石川慎一郎（過去作/ｶﾑｶﾑｴｳﾞﾘﾊﾞﾃﾞｨ,らんまん） 第5週
　　　中村俊介（過去作/？） 第6,7週
音楽：渡邊崇（過去作/軍港の子~よこすかｸﾘｰﾆﾝｸﾞ1946~）
主題歌：Ｃ＆Ｋ「ハートビート」
挿入歌：Ｃ＆Ｋ「旅人」
制作統括：桑野智宏（過去作/軍港の子~よこすかｸﾘｰﾆﾝｸﾞ1946~）
　　　遠藤理史（過去作/ﾅｲﾌの行方,下町ﾎﾞﾌﾞｽﾚｰ,木曽ｵﾘｵﾝ）
※敬称略

---

"穂波とホナミ"は、"直樹とナオキの心の中"で永遠に不滅…

原作(漫画)である暴力とも子『VRおじさんの初恋』は、読了しました。
でも、ネタバレは基本的に書きません。

「初めまして」の皆様も、ご常連の皆様も、管理人のみっきーです！
当ブログに来てくださり、ありがとうございます。

今回も、私の大好物で始まった。

そう、映像表現において、登場人物が自分の内面としての “分身” とリアルに語り合うシーンだ。

しかし今回は、前回での穂波（坂東彌十郎）と天真爛漫な美少女・ホナミ（井桁弘恵）のやり取りとは違う脚本、演出、演技になっていた。

前回の ＜穂波とホナミ＞ は、死期が間近なことを “受容” した穂波と、何かにすがりたいと思う “取引” な心理のホナミとの人生のふりかえり… といえば良いだろうか？

一方で今回の ＜直樹とナオキ＞ は、直樹（野間口徹）自身と、直樹をずっとそばで見てきた正に “分身” としての制服姿の女の子・ナオキ（倉沢杏菜）との「トワイライト」での思い出話… という感じになっていたような。

穂波とホナミには、ある意味で “今も未来” もないが。

直樹とナオキには “今も未来” もあるというか、直樹が存在、生き続ける限り永遠に不滅であり。

それは同時に、穂波とホナミも、直樹とナオキの心の中で永遠に不滅でもある。

"心というクラウド"で穂波とホナミに会いたいときに会える

先日、『改めて、妹のお骨に手を合わせて思うこと』の投稿でも書かせていただいたが。

改めて、妹のお骨に手を合わせて思うこと 

要約すると、次のようになる。

亡くなった人は “極楽浄土” というクラウドにいて。

お墓はデスクトップパソコン、仏壇はタブレット、ふと手を合わせて拝むのはスマホみたいなもの。

だから。＜自分が生きている限り＞ なら、亡くなった人と会いたいときに会えるみたいな感覚でいいと思う。

私は、上記のことを今作らしく映像化したと思う。

直樹は、ナオキとして「引き継ぎのデータを見返せる新機能」によって… と。

“心の中というクラウド” で往生した穂波とホナミに、会いたいときに会えるんだ…

繰り返しになるが、私は、こういう切ないけれど希望が見えるファンタジーが好きなのだ。

あとがき

「エピローグ」というよりも、「余韻」「残り香」「残像」「名残」「秘すれば花」のほうが私はしっくりくると思いました。

最近、原作モノの実写ドラマ版が物議を醸すことが多いですね。

私も、今作の実写ドラマ化は、当初の脚本担当が森野マッシュさんだと知って、半ば諦めました。

でも、メイン監督が吉田照幸さんで、途中から脚本にも加わったので、不安は安心に。

吉田照幸さんがメイン監督だった朝ドラ『エール』が、サクセスストーリーであると同時に、ヒューマンドラマになっていたように。

今作は、ピュアな恋バナであると同時に、家族愛のホームドラマと、オッサンの未来を描いたヒューマンドラマにもなっていたと思います。

新しい価値観を創出した意味で、実写ドラマ化して良かったと思います。

最後に。
全32回、秘かに(笑)応援してくださった読者の皆様、本当に書き続ける励みになりました。
ありがとうございました。

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