土曜ドラマ「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」〔全2回〕 （前編・2023/12/16） 感想

NHK・土曜ドラマ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』
公式リンク：Website、X(旧Twitter)

前編〔全2回〕『前編：記憶の中の少女』の感想。

※原作：小説・丸山正樹『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』は、未読。

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荒井尚人（草彅剛）は、コーダであることに複雑な感情を抱えながら生きていた。しかし、交際する安斉みゆき（松本若菜）との将来を考え、手話通訳士の道を選ぶ。そんな尚人のもとを刑事の何森稔（遠藤憲一）が訪れ、殺人事件について尋ねる。その事件は１７年前に尚人が手話通訳を担当した、決して忘れることのできない事件と関係していた。再び法廷での手話通訳を決意した尚人は、手塚瑠美（橋本愛）からの仕事依頼をきっかけに…
---上記のあらすじは[Yahoo！テレビ]より引用---

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原作：小説・丸山正樹『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』
脚本：高橋美幸（過去作/山本周五郎人情時代劇ｼﾘｰｽﾞ,ｸﾛｽﾛｰﾄﾞ ｼﾘｰｽﾞ）
演出：渡辺一貴（過去作/岸辺露伴は動かない2020 2021 2023）
音楽：原摩利彦（過去作/幸運なひと）
手話・ろう者監修：木村晴美（NHK手話ニュース845）
コーダ考証・手話指導：米内山陽子（過去作/｢ﾊﾟﾘﾋﾟ孔明｣ｼﾘｰｽﾞ構成）
手話指導：江副悟史（過去作/NHK｢こども手話ｳｲｰｸｰ｣ｷｬｽﾀｰ）
ろう者俳優コーディネート：廣川麻子（過去作/手話狂言｢仁王｣出演）
※敬称略

「障がい」の表記について

当ブログでは、人や人の状態を表す場合、原則「障がい者」「障がい」と表記としています。
※法令、条例、規則などからの引用や固有名詞は対象としていません

今作は、敢えて当ブログでは一切告知しなかった

今作の制作と放送を知ったのが、今年2023年5月。
※撮影期間も、今年の春に終了。

そのときから楽しみだったが、敢えて当ブログでは一切告知しなかった。

理由はいくつもあるが、「これも？」的な色眼鏡で捉えてほしくなかったから。

だって、常に “そういうの” にアンテナを張っている人なら絶対に引っ掛かる作品だと思うし。

前編を見終えた率直な感想は、「期待以上」

前編を見終えた率直な感想は、「期待以上」だ。

秀逸なのは、物語や “ドラマ” を構築していくうえで視聴者に提示すべき情報量が、厳重、徹底的に管理・抑制されていること。

感覚的には、普通のテレビドラマの半分以下だと思う。

何かと、あれもこれも情報を明かし、ネタを見せ、心情や感情を説明しまくる最近の雑で稚拙、幼稚でお子様ランチ風なドラマとは一線を画している。

映像化（演技、文字、音すべて）して伝える情報を極限まで引き算することで生まれたのが、次の３つの描き分けと共存だ。

●しっかりと間違えなく伝えるべきコト
●ニュアンスで理解してほしいコト
●想像してほしいコト

従って、当ブログも個々について、何であるかは書かない。

そして、評価し忘れてはいけないのは。

詳（つまび）らかにされていない情報が少ないのに、決していわゆる “考察系ドラマ” になっておらず。

社会派サスペンスであると同時にタイトルにある＜デフ・ヴォイス＝ろう者の声＞を通じて、コミュニケーションとは？ 生きるとは？ を問うヒューマンドラマとして見せて魅せていること。

気になった点も…

ただ、褒めるばかりでは能がないから、気になった点も書いておく。

それは、前後編の前編だから、後編を見れば納得できるかもしれないが。

前編において、メインの事件以外が割と多かったことだ。

主人公の荒井尚人（草彅剛）の交際する安斉みゆき（松本若菜）とのやり取りや。

みゆきの元DV夫・米原智之（和田正人）までもが事件に盛り込まれたこと。

このサブキャラ２名は事件には無関係（に見える）だけに、無しでスッキリとさせても良かったかな？ と。

但し、ここでフォローするのもおかしいが。

聴者も、ろう者も、大切なのはコミュニケーションをどう取るか、気持ちが正しく伝わらないと困ることが山ほどあるといった部分や。

人間のエゴや欲望が引き起こす様々事件やトラブルを通して、正義とは何かを問う “ドラマ” なら…

後編を見終えてから評価しても決して遅くはないと思う。

デフ・ヴォイスは、"ろう者の声""手話""社会的少数者の声"

ここから、「あとがき」の前までは、今作を見て感じた「作品自体の感想」とは違ったことを書いてみる。
興味関心がなければ「あとがき」に飛んでください。

いいや、むしろ、私が今作の感想で書きたかったのは、ここからなのだ。

まずは、今作の制作裏話的なこと。

今作の最大の特徴が「ろう・難聴の役を20人もの当事者が自ら演じている」ことだ。

また、NHKのドラマでは、現場スタッフに ろう者を加えたのは初めて。

今作のタイトルになっている『デフ・ヴォイス』は “ろう者の声” を意味すると前述したが。

“手話” や “社会的少数者の声” の意味も込められている。

今作の手話指導担当で、元NHK『こども手話ウイークリー』のキャスターで、俳優としても出演されてい江副悟史が次にように語っている。

「ろう者が自分たちの言語である手話で
　リアリティーをもって伝えるドラマ」

「聴も　ろうも　垣根なく
　当たり前に活躍できる社会の一歩になった」

「みんなに注目が当たったことで
　活躍の場が増えていくのが楽しみ」

ろう者が手話で俳優として活躍する社会づくりの第一歩

江副さんは既に「ろうの俳優」として活躍しているが。

ろう者が俳優として、手話という言語を使った演技で活躍するべき、活躍できる社会の第一歩として今作を捉えていると思う。

聴者が演じる “ろう” では決してできない、リアルな手話ならではの演技に脚本に書かれたセリフを落とし込んでいく。

制作現場の映像では、本来の演技（動作）から敢えていくつかの動作を間引いたり、動作を早くすることで、ろう者が見ても不自然でない手話の演技を目指したようだ。

そして、私が驚いたのは、“演技としての手話” によって、しっかりと “ろう者の登場人物の感情” が見えて伝わってくることだ。

例えば、聴者の俳優さんなら怒りの感情を声を荒げるとか、悲しみを声を震わせるなんてことをやるが。

ろうの俳優さんたちは怒りは動作を大きくし速くすることで、悲しみは小さくゆっくり動かすなど。

もちろん、表情や声のトーンを変えて演じるはやったうえで… だ。

どの作品とはあえて挙げないが、最近、聴覚障害をキャラクターの特徴につかうドラマが増えている。

そんな中に、本物を感じる “ドラマ” として大きな一石を投じたと思うし。

今後の活躍にも期待したい。

【見逃し配信】ハートネットＴＶ　ドラマ「デフ・ヴォイス」舞台裏に密着　※字幕スーパー 
放送：NHK Eテレ　12/13(水) 午後8:00-午後8:30
配信期限 : 12/20(水) 午後8:29 まで

「あんた 懐かしい手話を使うな」と言わせた主人公の手話

もう一つは、私もほんの少しだけかじっている手話のこと。

それは、下記の記事についてだ。

佳子さま『全国高校生の手話によるスピーチコンテスト』で見せた、“声を出さない手話”がろう者の間で「この挨拶は歴史的」「心からうれしい」 | 週刊女性PRIME 

私なりにまとめると、次のようになる。

佳子さまが「全国高校生の手話によるスピーチコンテスト（2023年8月27日）」に出席した。
その際、7分にわたり手話のみでスピーチを行い、手話通訳による読み取り通訳を依頼した。

昨年、手話と声を同時に使用して挨拶していたため、今回はこの手話スピーチはろう者の間で歴史的な話題となったのをご存じだろうか？

そして特に、「非手指動作」も含め、その自然で優れた表現力が賞賛された。

手話には、大きく分けて二つある。

●ひとつは、先天的に聴こえない人が多く使う【日本手話】
●もうひとつは、後天的に聴こえなくなった人が主に使用する【日本語対応手話】

前者は日本語と異なる文法を持つため、声を出さずに行うことが一般的だ。

佳子さまは声を出さずに手話を行うことで、非手指動作も巧みに取り入れた。

このことが、ろう者のコミュニケーションにおいて重要な要素であることが更に強調されたのだ。

開催当時の手話通訳士の見解は。

「佳子さまの手話は非手指動作も含めて非常に自然であり、『非手指動作を使われた初めての皇族』として歴史に名を刻むことになる」

ろうの人たちは、この出来事が日本手話の正しい認識を広め、理解を深める契機になることを期待しており、佳子さまの固いご決意に感謝しているそうだ。

で、ここからが今作との関連事項。

劇中のファミレスのシーンで、主人公の手話が、ろうの年配男性・益岡英雄（山岸信治）に次のように言われる。

益岡「あんた 懐かしい手話を使うな」

主人公が使った手話が、佳子様がおつかいになった【日本手話】なのだ。

誤解を恐れずに書けば、私たちがテレビなどでよく見る “ジェスチャーみたいな手話” と異なった “サインとは違う言語” なのだ。

草彅剛さんの【日本手話】の所作の美しさは、ろうスタッフ＆キャストからも「きれい」「美しい」との評価だったそうだ。

できれば、草彅さんの所作も見逃したくない。

あとがき

今夏に地上波でも放送された、主演・吉岡里帆さんと笑福亭鶴瓶さんのNHKドラマ『しずかちゃんとパパ』（NHK BS/2022）も、ろう者を扱った作品でしたが。

ドラマ『拾われた男 Lost Man Found』（NHK/2022）をはじめ。

土曜ドラマ枠だけでも、『六畳間のピアノマン』『心の傷を癒すということ』『きよしこ』『エンディングカット』『空白を満たしなさい』など…

民放では及び腰になるデリケートなテーマに果敢に挑んだ作品に秀作が多いと思います。

こういうチャレンジ精神あふれる作品こそ、NHKが制作・放送し、世に問うべきだと思います。

後編にも期待します。

★すべての読者様に愛と感謝の “ありがっとう!!”

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