土曜ドラマ「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」〔全2回〕 （後編・2023/12/23） 感想

NHK・土曜ドラマ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』
公式リンク：Website、X(旧Twitter)

後編〔全2回〕『後編：もうひとつの家族』の感想。

※原作：小説・丸山正樹『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』は、未読。

---

荒井尚人（草彅剛）は、海馬学園理事長殺人事件の重要参考人とされる門奈哲郎と対面。１７年前に尚人が手話通訳を担当した門奈には、娘が２人いたはずだったが、娘は１人だと伝えられる。不審に思った尚人は真相を知るため事件を追いかけることに。手塚瑠美（橋本愛）は罪に問われることを覚悟の上で門奈を守ろうとしていた。過去の事件と現在の事件の関わりを確信した尚人は、刑事の何森稔（遠藤憲一）に門奈の居場所を告げ…
---上記のあらすじは[Yahoo！テレビ]より引用---

---

原作：小説・丸山正樹『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』
脚本：高橋美幸（過去作/山本周五郎人情時代劇ｼﾘｰｽﾞ,ｸﾛｽﾛｰﾄﾞ ｼﾘｰｽﾞ）
演出：渡辺一貴（過去作/岸辺露伴は動かない2020 2021 2023）
音楽：原摩利彦（過去作/幸運なひと）
手話・ろう者監修：木村晴美（NHK手話ニュース845）
コーダ考証・手話指導：米内山陽子（過去作/｢ﾊﾟﾘﾋﾟ孔明｣ｼﾘｰｽﾞ構成）
手話指導：江副悟史（過去作/NHK｢こども手話ｳｲｰｸｰ｣ｷｬｽﾀｰ）
ろう者俳優コーディネート：廣川麻子（過去作/手話狂言｢仁王｣出演）
※敬称略

「障がい」の表記について

当ブログでは、人や人の状態を表す場合、原則「障がい者」「障がい」と表記としています。
※法令、条例、規則などからの引用や固有名詞は対象としていません

クォリティーが高く、アカデミックなミステリーとして秀逸

前回の感想で「後編を見てから評価をしよう！」と書いた、前編で気になった２つをおさらいしておくと。

●メインの事件以外が割と多かったのでは？

●主人公の荒井尚人（草彅剛）の交際する安斉みゆき（松本若菜）と、みゆきの元DV夫・米原智之（和田正人）は、事件には無関係（に見える）だけに、無しでスッキリとさせても良かったかも？

後編を見終えた今、改めて評価すると＜秀逸な仕上がり＞だった。

断っておくが、私は推理ドラマ、警察ドラマ、刑事ドラマなどの “謎解き要素” が含まれる作品は、あれこれ盛り込むべきでないと思っている。

それは、単純に分かりにくくなるばかりで、焦点ボケの原因になることが多いからだ。

では、今回はどうだったか？

詳細に検証してはいないが、主人公に関しては、自身の CODA としての過去と現在、警察官時代の過去、今の警察との関係、過去の結婚、今の交際、仕事関連など、簡単に見積もっても６つ以上が盛り込まれていた。

その上で、サブキャラたちの過去と現在も盛り込まれていた。

そしてそれらすべてが、最終的に＜家族を守ること＞に帰着した。

お見事である。

社会派ドラマであり、ヒューマンドラマでもあり、ホームドラマでもあり…

クォリティーが高く、アカデミックなミステリーとして秀逸な “ドラマ” だった。

旧優生保護法のもとで障害などを理由に不妊手術が行われ…

次に書くことは、今作への直接の感想ではないが…

更に知ったかぶりでしか書けないが、知らない人には知ってもらいたいから書いてみる。

今年2023年6月に国会で、次の実態が明らかになった。

旧優生保護法のもとで不妊手術 “9歳男女が手術も”国会報告書 | NHK | 国会 

ぜひとも、当該の記事を読んでほしいが、ざっくり解説してみると次のようなことだ。

平成8年まで施行されていた「旧優生保護法」のもとで、障害などを理由に不妊手術が行われていた問題だ。

国の統計で、行われるべきでなかった不妊手術は、。およそ2万5000人以上だったと。

「旧優生保護法」とは、現行憲法下で昭和23年（1948）に成立した法律。

戦後、人口過剰問題やヤミ堕胎（資格を持たない堕胎医や女性が、自前の器具を使って中絶を行う中絶術）が増加した。

優生思想（障害者を排除するなどの命に優劣をつける選別）の下、「不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護すること」（第１条）を目的とし、優生手術（不妊手術）及び人工妊娠中絶（以下、両手術を併せて「優生手術等」という）が行われていたのだ。

ろう者を取り巻く歴史や文化について示唆したのは想定外！

もう、お気づきだろう。

前編でも登場した ろうの年配男性・益岡英雄（山岸信治）が中華料理屋で次のことを言っていた。

11分過ぎ、ろう学校で知り合った妻とのあいだに生涯子どもを持てなかったことを言及する場面だ。

英雄「妻も私も 子どもを望んだが… だめだった
　高校生のとき 妻は 両親から盲腸だと言われ
　手術を受けていた」

このことを “ドラマ” で、それも “ろう者を扱うドラマ” に盛り込んだことが、ある意味で今作で最も驚いたことだ。

ニュース番組だって敬遠していたのに、今作ではさらりと流したのだ。

前回の感想で次のように書いた。

秀逸なのは、物語や “ドラマ” を構築していくうえで視聴者に提示すべき情報量が、厳重、徹底的に管理・抑制されていること。

この『旧優生保護法による不妊手術強制問題」の訴訟は今年11月に最高裁に判断を委ねられている由々しき案件。

それを、これ見よがしに盛り込むでもなく、スルーして終わるでもなく。

当事者の経験談として、実際に起こった事案として “ドラマ” に盛り込み、さらりと主人公が受け流す描写にしたのが、個人的にはショッキングだった。

うまいことをいう、書くつもりはないが。

見ようとしないと見えないもの、聞こうとしないと聞こえてこないもの、知ろうとしないと知り得ないことを、きちんと “ドラマ” に組み込んで伝えてこそ、NHKが放送する意味も価値もある作品のひとつの使命と矜持だと思う。

マイク不使用の瑠美(橋本愛)の真実の告白の"演出"を考える

最後に、当ブログらしく “演出” について書いてみる。

私が「なるほど、そうやったのね」と感心したのが、結婚披露宴のシーンでの‘輝’こと手塚瑠美（橋本愛）の真実を吐露する渾身のスピーチの場面だ。

結婚披露宴の演出も30年以上やっているから敢えていうが、リアルな現場なら会場規模を考えれば当然だが “マイク拡声” があると思う。

しかし、今作ではマイクの類が一切なかった。

もちろん、留美の、橋本愛さんの手話や表情を見せるのに邪魔だから。

だって、スタンドマイクが立っていたら映像的に見えづらい。

ハンドマイクだったら手話ができない。

だったら「最初からマイクは使わない設定」は演出として正しい選択だ。

でも、それ以上の効果を狙った可能性がある。

その前に、この演技が、手話と口話の同時通訳でなく、逐次通訳（手話をやってから口話で説明する）にしていたこととリンクするのではないだろうか？

よく見れば分かるが、時々、橋本愛さんが手話の最中に息を飲んだり吐いたり、力んだりする音が聞こえた。

これ、喋りながらの手話では不可能だ。

恐らく、あのスピーチシーンは字幕で書かれていたすべてが表現されていない。

ここには賛否両論あると思う。

でも私は、前回の感想に書いたように、今作は“演技としての手話” によって、しっかりと “ろう者の登場人物の感情” が見えて伝えることに挑戦している。

そう考えれば、健聴者の CODA である瑠美だからこその手話で、会場にいるろう者に伝えたいことと、健聴者に伝えたいことを “使い分けている”、“言い分けている” と描写していると思う。

もちろん、終盤の瑠美のアップによる両親と姉への呼びかけをより印象的にするために同時通訳になっており、それまでを逐次通訳にしたのは言うまでもないが。

あくまでも勝手な想像であり理屈だが、そう考えると “マイク無しで間引いた手話” の演出、そして演技は深い意味を持つと考える…

留美のアップで手話が画面から見切れた演出をどう捉えるか

ただ、評価が難しいし、私も悩んだのは、その留美のアップの構図によって、手話が画面から見切れたことだ。

もちろん “ドラマ” の表現としては間違ってはいない。

しかし、＜手話だからこそ伝わるもの＞があるとする前提の今作なら、ほかの見せ方、描き方、伝え方もあったかなと思う。

ただ、手話が見えるまでカメラを引いたＢＳ（バストショット＝胸から上の構図）では、留美の真意は映像で伝えるのは難しいはずだ。

その意味でも、ろう者が俳優さんとして活躍する世界をつくるなら、試行錯誤するべき事案だし、良い機会になったと思う。

今作に似たテーマの映画で『コーダ　あいのうた』について

今作に似たテーマの映画で『コーダ　あいのうた』（アメリカ・フランス・カナダ合作／2012製作）がある。

コーダの少女が、ろうの家族の言動や聴覚障害者へのさまざまな問題を勇気と力に変えて夢に向かう姿を描いたヒューマンドラマ。

2014年製作のフランス映画『エール！』のリメイク版で。

2022年・第94回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞（トロイ・コッツァー）、脚色賞の3部門にノミネートされ、同3部門を受賞。

タイトルの「CODA（コーダ）」は、「Children of Deaf Adults＝耳の聴こえない両親に育てられた子ども」のこと。

この作品も、障がいのある俳優たちが主人公の家族を演じて話題になった。

興味を持ったらぜひとも見てほしいので、これ以上は書かない。

下記のリンクからどうぞ！ ってことで（笑）

あとがき

聞こえる家族＜コーダ＝CODA＝＞だからこその、ろう者の家族からの疎外感や苦悩や葛藤…

を、うまく伝えたと思います。

更に、既述した「旧優生保護法のもとでの強制不妊手術」といった、ろう者を取り巻く歴史や文化についても示唆した点も評価したいです。

そして何より、「ろう者が俳優として、手話という言語を使った演技で活躍するべき、活躍できる社会の第一歩」としての大きな意義と価値はあったと思います。

切に、続編が希望します！

★すべての読者様に愛と感謝の “ありがっとう!!”

管理人・みっきーが お薦めする商品を、Amazonと楽天市場から安心して ご購入していただけます! デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士 (文春文庫) 丸山正樹 (著) 文藝春秋 ￥814(記事投稿時)  Amazonで購入  Kindleで購入  楽天市場で購入  楽天koboで購入

管理人・みっきーが お薦めする商品を、Amazonと楽天市場から安心して ご購入していただけます! 映画「コーダ あいのうた｣ [Blu-ray][DVD][Prime Video] エミリア・ジョーンズ (出演), トロイ・コッツァー (出演), シアン・ヘダー (監督) 2023-09-06 ￥1,418(記事投稿時)  Blu-rayで購入  DVDで購入  Prime Videoで購入  Blu-rayで購入  DVDで購入

「楽天市場」からのおすすめ商品や企画


「Amazon」からの最新のお知らせ

トラックバックは、下記の「ミラー & TB用ブログ」へお願いします。
【FC2ブログ】http://dmesen.blog71.fc2.com/blog-entry-14727.html

---

【これまでの感想】
前編 

---

感想の趣旨について

当ブログの感想は、僭越ながら 「もっと こうしたらよいのに…」を追究 することで、広く映像作品を楽しめるようになることを目的としています。
作品の 粗探しや重箱の隅を楊枝でほじくる こと、スタッフの人格否定や俳優の個人攻撃 が 目的ではない ことをご理解ください。

【すべてのコメントの「非公開希望」について】
コメント非公開希望の方は、お手数ですが「非公開希望」と書いてくださると助かります。

【すべての投稿されたコメントについて】
当blogの『無断転載禁止＆まとめサイトへの引用禁止、コメント，トラックバック＆リンク・ポリシー』に基づき、不適切な書き込み（読む人を不快にさせる内容、誹謗中傷、特定の個人への攻撃）は、恐れ入りますが管理人の判断で、非公開、または削除させていただく場合もございます。何卒ご理解・ご協力くださいませ。

【Amazonアソシエイト、楽天アフィリエイト、忍者AdMaxについて】
商品リンクや広告は「成果報酬型広告」です。
私に少しポイントが入りますが、商品の値段は変わりません（謝）

｢共感!｣｢納得!!｣なら"Web拍手"と一緒にﾎﾟﾁｯと…
｢違うでしょ?｣｢怒!!｣でも意思表示でﾎﾟﾁｯと…
押していただけると､うれしいです♪

◎Web拍手のために、こんな下まで来てくだり、本当にありがとうございます（感謝）