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連続テレビ小説「カーネーション」

NHK総合・連続テレビ小説『カーネーション』公式
第13週『生きる』の『第75回』と、第14週『明るい未来』の『第76回』感想。


 私は本作を初見なので、ネタバレ等のコメントは無視します。
 毎日毎日の感想なので、私の気分も山あり谷ありです。ご理解を。
 また、称賛、絶賛の感想だけをご希望の方は読まない方が良いです。


【第75回】
勝の戦死を知った糸子(尾野真千子)だが、悲しみすら実感できないまま葬式を出す。そして、炎天下の消火訓練や空襲警報の合間に、疎開先の家族に自転車で食料を届けるのだった。泰蔵の戦死や神戸の屋敷の全焼など、つらい出来事を感情を殺してやり過ごしていた糸子だが、だんじり小屋を訪れた時、幸せだった時代を思い出して涙がこみ上げる。疎開先の空襲から子どもたちを守った糸子は、「絶対に死なない」と固く誓う。

【第76回】
終戦を迎え、糸子(尾野真千子)は善作たちを思い静かに涙を流す。しかし心機一転、モンペからアッパッパに着替え、解放感を味わう。アメリカ軍が来るからと注意されるが、もう二度とモンペをはく気はなかった。店では軍から払い下げられた布地で肌着を縫うくらいしかできないが、糸子は木之元(甲本雅裕)と一緒に闇市へ行き、物の豊富さに目を丸くする。帰り道、アメリカ軍をはばかって今年もだんじりが中止になったと知る。
---上記のあらすじは[NHK番組表]より引用---

【第75回】悲痛と絶望が極限に達し、無感情の糸子…

本放送時は、2011年12月28日(水)で年内最後の放送だった第75回。冒頭、前回の終盤の続きで、糸子が、封筒の中の夫・勝の訃報を知らせる手紙を見て、ポツリと「ほうか…」とつぶやいた後、勝のお骨を自宅に持って帰って来てのこのモノローグ↓や…

糸子(M)「とにかく 食べてへんのと 寝てへんのと
     暑いんと (セミが)うるさいんと」

糸子たちが、勝の葬式行列を組んで町を廻る時のこのモノローグ↓や…

糸子(M)「なんしか モノが考えられません。
     言われるままに 逃げて
     言われるままに動いて 食べ物を届ける
     寝れる時に 寝る でも 寝てられんと 起きる」

泰蔵の戦死の知らせを息子の太郎から知らされた八重子が、ドサッと膝をつき泣き叫んだ時のこのモノローグ↓も…

糸子(M)「太郎が 泰蔵にいちゃんの戦死公報を持ってきた時も
     なんでか知らん 涙も出んのでした。
     気持ちっちゅうもんが どっか 行ってしもたようで。
     けど これはこれで 楽や。
     悲しいちゅうんはつらいし つらいんは しんどい」

悲痛と絶望が極限に達し、一度、感情と言うものが麻痺して無感情となり、残ったのは「ただ生きる」「ひらすら生き抜く」ことだけになった糸子を見事に表現した。

そして、当blog風に演出面で書き加えるならば、恐らくこれまでの葬式行列は、画面の奥から手前、もしくは上手(画面右)から下手(画面左)に歩いていたが、今回の勝の葬式行列は、下手から上手、手前から奥へ歩いた。

これは私が以前に投稿した『[演出プチ講座] 映像の掟~画面内の人物の位置や視線(目線)の向きには意味がある~』によれば、葬式行列の悲しみよりも、糸子の寂しさの中の希望を強く表現したと言える。

ばらばらの赤い花弁が、戦争で散って逝った男たちを象徴

そして、ある日。糸子が店への帰路を歩いていると、祭りのお囃子が聞こえて来る。糸子は、昔のだんじり祭りや父の善作、夫の勝、幼馴染の勘助、憧れの泰蔵兄ちゃんのことなどを、ついこの間のことのように鮮明に思い出す。その流れで、履物屋の木岡保男が “だんじり” を見上げている。

ふと、保男が振り返ると、自分と同じように “だんじり” を見上げる糸子の姿を見つける。そして、その糸子はセミの鳴き声をかき消すように、人目もはばからずに大きな声で泣く。ばらばらになった赤い花弁が、戦争で散って逝った男たちを象徴するような印象的なシーンだ。

在り来たりのドラマチックな手法を徹底的に排除して…

その夕方。電器店の木之元栄作が、糸子の母・千代たちが暮らしている山中町に爆弾が落ちたと伝えに来る。糸子は山中町の家の中に駆け込むと、千代たち全員が泣きながら身を寄せ合っていた。そこでは、糸子が気丈にこんなことを言う。

糸子「お母ちゃん 川へ逃げるで!
   みんなで 水ん中 飛び込も! 燃やされへんよって」

この辺の演出は実に秀逸だ。極限状態を経験した糸子が、「ただ生きる」「ひらすら生き抜く」ことだけになったことを、理論的だったり形式的だったりする、いわゆる在り来たりのドラマチックな手法を徹底的に排除して、プラグマティック(実利的、実際的)な手法で丁寧で斬新に描いた。

そのために、実際の糸子たちが見たもの、聞いた音、触れた感覚などを通して、“戦時中の小原家の日常” を説明的でなく、より現実的な事象として見事に視聴者に届けた。田中健二氏(『半分、青い。』も担当中)の演出に脱帽だ。

ここまでしっかりと戦争体験者を描いたドラマは無いかも…

そして、14分過ぎ、ついに終戦。以前の第55回で糸子はモノローグでこんなことを言っていた。

糸子(M)「こっちははよまともな商売したて
     うずうずしてんや。
     勝つなり負けるなりどっちゃでもええさかい
     さっさと終わらんかい!」

この↑糸子の “本音” を裏付けるように、雑音の中、よく聞き取れない玉音放送を聞き終えた糸子が、1人ラジオの前に残り、立ち上がってラジオの電源を切って、全身の力が抜けたようにゆっくりと立ち上がって、こう言う。

糸子「さあ…。お昼に しようけ」

日本が戦争で勝とうが負けようが、糸子にとって一番大切なのは “小原家の日常” を取り戻すことであり、まともな商売を始めるってこと。これを最後に明瞭に描いたのは素晴らしい。ここまで、しっかりと戦争を、いや戦争体験者を描いたドラマは他に無いかも知れない。恐るべし朝ドラ『カーネーション』。年明け第1弾が楽しみだ。



【第76回】序盤は予想通りの展開だが…

第14週『明るい未来』の第1話目となる第76回は、2012月1月4日に放送された。前回が玉音放送を聞いて戦争が終わったことを何よりも安堵し、「さあ…。お昼に しようけ」の台詞で終わったのを受けて、本放送時は新年第1回目としての第76回は、糸子が一人で昼食を食べるシーンから始まった。

時は、昭和20年(1945)8月15日。そして、この糸子のモノローグで、“小原家の戦後” が始まったことが分かる。

糸子(M)「今日 戦争が終わりました。
     戦争が… 終わりました」

そして、毎度のことだが、糸子のモノローグから台詞に繋がる、自分の気持ちを良く喋る糸子も戻って来た。

糸子(M)「十何年も続いた戦争が
     急に『終わった』といわれてもな
     お父ちゃん。勝さん。勘助。泰蔵にいちゃん」
糸  子「終わってんて… 戦争」

故人を偲ぶような回想が入り、仏壇の善作と勝の遺影に手を合わせ涙する糸子。まあ、ここまでは予想通りの展開だ。しかし、このあとの展開が見事なのだ。

糸子の性格を最大限に活かした、見事な展開へ

まず、さっき父と夫の遺影に泣いていた糸子が、次に自分の部屋に行くと、鏡の中の自分を見て肩を落として、こう言う。

糸子(M)「はあ… 鏡も ろくに よう見ん間に
     えらい おばちゃんに なってしもたなあ。
     好きな人らが みんな死んでしもて
     こんな おばちゃん なって
     もう この先 うちに 何の楽しい事があるやろ?」

「今泣いた烏がもう笑う」なんて故事成語があるが、本作では「今泣いた糸子が今度は落ち込んだ」となる。そして、次は糸切りを取り出して、胸に付けていた名札を外し始めると、こんなことを言い出して、引き千切るような勢いで名札を外す。

糸子「こんなもん… 金輪際… 金輪際 つけてやるか!」

そして、アッパッパを着て楽しそうに出掛けて行くのだ。この間、放送尺は僅か5分。そんな短い時間で、糸子の感情は「悲しみ → 落ち込み → 腹を立て → 笑顔で出掛ける」とめまぐるしく変化する。

こんな風に描けるのは、糸子の性格が “感情的” で “気分屋” で “頭の切り替えが速く” て、 “男勝りなヒロイン” だからこそ出来る技だ。

後半戦のツカミはオッケー

例えばドラマ全体を考えた時、戦中から戦後への大きなターニングポイントをどう描くのかは、朝ドラに限らず悩むところだと思う。一気に変えるのか徐々に変えるのか? だけでもドラマの印象は違ってくるし、時間経過を挟めば折角戦中から戦後を描いた意味が薄まってしまう。

そこで本作は、これらの糸子の性格が巧みに活かして、糸子のめまぐるしい心境の変化で、玉音放送を聞いた直後の多くの日本人が感じた違和感や戸惑いや夢や希望と言った複雑な心境を上手に代弁したと思う。その意味で、本作の半年間の「後半戦のツカミはオッケー」と言いたい。

時代や日常が刻々と変化するのを、主人公の糸子で魅せた

物語はどんどん進む。翌日、糸子に仕事を斡旋していた履物屋の木岡保男の弟・靖が糸子を訪ねて来て、仕事を始めても納品先がないから少し休もうと言い出す。糸子も流石に食い下がりはせずに「まあ そら そやわなあ」と納得。

で、今度はアッパッパなんて着ているとアメリカ兵に狙われると聞いて、モンペに履き替えようとするとが、「こんなもん 着んのは もう 死んでも嫌や!」と言ってモンペを仕舞い込んで、窓から天を見上げて悔しそうに、こう叫ぶ…

糸子「アメリカ軍でも何でも 来るんやったら来いっちゅうんや~!」

また、木之元電気店を訪れれば、笑いながらこう言う…

糸子「おっちゃん! 聴いたけ? ラジオ。
   ええ曲 やるようになったなあ!」

糸子は、木之元栄作に市場に連れて行ってもらい、そこは大賑わいで、食べ物や缶詰、時計などたくさんの食糧や物資が揃っており驚く。ここまで10分。本当に、糸子の感情が、あれよあれよと言う間に変化していく。正に、時代が、日常が、刻々と変化しているのを、主人公の糸子で魅せた。これ、本当に凄いと思う。

だんじりを曳く男衆と直子で、終戦と時代の変化を描いた

そして、物語は “だんじり” へ。保男が警察官と何やら揉めている。警官が「だんじりなんか曳いて騒いじゃったら アメリカ軍が 何しに来よるか分からへんやろ!」と、今年の “だんじり祭り” の中止を促す。そして、祭りの朝、“だんじり” を一目見るだけでもと “だんじり小屋” に、人だかりが出来ていた。

その中にいる、糸子、栄作、保男、宗次郎たちは、ただただ “だんじり” を無言で見上げている。そこへ、第72回で「男が いてへんでも 直ちゃんが 曳いちゃら。絶対 絶対 曳いちゃる」と母の糸子のように、威勢の良かった直子が登場。なんと、直子は糸子の隣で手足の屈伸をして準備運動をしているではないか。

ここの、少女期の糸子の生き写しみたいな直子と、人生を重ねおばちゃんに成長した糸子の会話が面白い。

糸子「直子 あんた 何してんの?」
直子「曳くで!」
糸子「はあ? いや 今年は 曳かれへんやし。
   …ちゅうか あんた 女やしな」
直子「曳くっちゅうたら 曳く!」

このやり取りだけで面白いのに、一緒に “だんじり” を眺めていた一人の復員兵の男が、突然に笛を吹き始めるから、ドラマが楽しくなる。

保 男「何でや… 何で 曳いたら あかんのや!」
栄 作「だんじりは わしらの命や…」
宗次郎「ええやないか 曳こや」
保 男「おう。わしら 今 これ 曳かれへんかったら
    ほんま 終わってしまうど!」 栄 作「せやのう」
保 男「曳こよ!」
栄 作「よっしゃ!」

もう、こうなると、見ているこちらも熱くなる。当然、劇中で “だんじり” を見上げていただけの男衆が、一斉に小屋へ走る。なんと、直子も “だんじり” を曳く綱の端を握っているではないか。

直子「おっちゃん うちにも曳かして!」
栄作「な… 直ちゃん?」
糸子「これ! 直子」
直子「嫌~」
保男「おう チビ! 曳け曳け!」
栄作「女やがな。ままままま… ええか」
糸子「はあ?」

慌てる糸子。綱を力いっぱい引く直子。そして糸子は、ゆ~っくりと小屋から出てくる“だんじり”を見上げた。

あとがき

年末の「木・金・土曜日」の3回分で、しっかりと糸子を中心に描きつつ、本作らしい喜怒哀楽表現を織り交ぜ、特に年内最後の第75回は、戦中はずっと辛い感情を押し殺して来た糸子が、「ただ生きる」「ひらすら生き抜く」とする姿が魅力的に描かれました。

そして、新年第1回の第76回は、男勝りで感情の起伏が激しいヒロインだからこそ描けた戦後の第1日目と言う感じ。糸子だけでなく周囲のみんなが活力や生命力を感じることが出来て、勇気や希望が見えました。再放送としての組合せも、偶然とは言え、絶妙だったと思います。

最後に。前回の感想に 158回ものWeb拍手と数々のコメントを頂き、ありがとうございます。年末最後の回と年始最初の回が連続で見られるなんて “奇跡的” ですよね。丁寧に丁寧に人間が描かれているのが素晴らしいです。次回にも期待します。

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第1週『あこがれ』
1,2 3,4 5,6
第2週『運命を開く』
7,8 9,10 11,12
第3週『熱い思い』
13,14 15,16 17,18
第4週『誇り』
19,20 21,22 23,24
第5週『私を見て』
25,26 27,28 29,30
第6週『乙女の真心』
31,32 33,34 35,36
第7週『移りゆく日々』
37,38 39,40 41 42
第8週『果報者』
43 44,45 46,47 48
第9週『いつも想う』
 49 50,51 52,53 54
第10週『秘密』
55 56,57 58,59 60
第11週『切なる願い』
61 62,63 64,65 66
第12週『薄れゆく希望』
67 68,69 70 71,72
第13週『生きる』
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  • 無題
夢想花 2018/06/28(Thu)18:02:27 編集
神回!と薄っぺらい内容を厚顔無恥に自ら語るどこかの大先生。かたや奇跡のように毎週本当に神回にふさわしいシーンが必ず訪れる渡辺あやさんの本作。そのなかでもこの75回は自分の中ではキングオブ神回です。
クリスマスケーキ・善作死去・勘助戦死・etc、50歳過ぎのいいおっさんが涙を堪えきれないくらい感動してきましたが、象徴的な赤い花びらを直子たちから受け取るシーンからだんじり前での尾野真千子さんの
まさに慟哭・・・大の男だからと堪えてきたリミッターがこのシーンで弾け飛び、静かに涙がつたうどころか嗚咽してしまいました。感動的な映画・テレビドラマを観て涙が頬をつたうことはありましたが、こんな経験は今までにないというほど。
玉音放送に対するみんなの反応、そして糸子の”さあ,お昼にしようけ”の描写。これまで幾多、終戦のシーンは映画・テレビで観たけれど、渡辺あやさんのこの描写は絶対並みの作家には創りえない天才的な内容ですね。
15分の中でこれほどの完成度、カーネーション恐るべし。ドラマの中でほんの数回・それどころか数分しか登場しなかったけど本当に愛しい人たち(パッチ店の大将・恐らく出征したであろう山口さん・心斎橋百貨店の支配人・エレベーターガール・駒ちゃん・
あのちょっと憎らしいロイヤル店主、そして東京の根岸先生,etc)は生き延びたんだろうか、ドラマに登場したすべての人々がどうか無事であってほしいと思いました。
  • Re:無題
みっきー 2018/06/29 09:54
☆夢想花さん
コメントありがとうございます。

>ドラマに登場したすべての人々がどうか無事であってほしいと思いました。

そう思いたくなる程に、
しっかりと登場人物が描かれていると言うことの証明ですね。
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皆さまのおかげで、2018年9月16日に1,800万アクセス達成を致しました。(感謝の記事