NHK総合・NHK BS・プレミアム4K/連続テレビ小説『風、薫る』
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第38回/第8週『夕映え』の感想。
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※ また、称賛、絶賛の感想だけをご希望の方は読まないほうが良いです。
千佳子(仲間由紀恵)の病室に、主治医の今井(古川雄大)、黒川(平埜生成)、藤田(坂口涼太郎)が訪れ、夫・元彦(谷田歩)の前で病状について話そうとする。千佳子のわずかな表情の変化に気づいたりんは…一方、瑞穂屋には槇村(林裕太)と兄の宗一(上杉柊平)、シマケン(佐野晶哉)が現れ、そこに安(早坂美海)もやってきて…
------上記のあらすじは、公式サイト等より引用------
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
脚本:吉澤智子(過去作/ドリームチーム,幸運なひと,くるり~誰が私と恋をした?~)
演出:佐々木善春(過去作/ごちそうさん,マッサン,あさが来た) 第1,4,8週
新田真三(過去作/あさが来た,べっぴんさん,トクサツガガガ) 第2,6週
橋本万葉(過去作/とと姉ちゃん,生理のおじさんとその娘,おむすび) 第5週
松本仁志(過去作/光る君へ,どうせ死ぬなら、パリで死のう。) 第3,7週
制作統括:松園武大(過去作/とと姉ちゃん,半分、青い。,ちむどんどん)
宮本えり子(過去作/なつぞら,エール)
音楽:野見祐二(過去作/光る君へ,どうせ死ぬなら、パリで死のう。)
主題歌:Mrs. GREEN APPLE「風と町」
語り(本編):研ナオコ
土曜日版ナレーション:石橋亜沙(NHK東京アナウンス室)
※敬称略
ドラマの行間を読み解く、視聴者の脳内補完と制作陣の甘え
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―――ここまで、ごあいさつ―――
本日も安定の「主人公界隈では何も起こらない、特に動かない、ネタ振りだけの水曜日」である。
よって、新たに書くようなことはほぼないのだが。
これまで、「いつか書こう」と思っていたことを書いてみる。
今回もそうだが。
私は、本作を見る際には、相当な好意的な脳内補完をして見ている。
かなりの善意の解釈をし、無理やりに納得し、脚本家や演出家や制作統括の意図を予想して見ている。
もはや、そのレベルは、「推理もの」「考察系」の類と一緒だ。
で、困るのは。
その脚本家ら制作陣が《視聴者の善意の解釈を前提にして》このドラマを作っていることだ。
要するに、《映像で見せて(show)魅せる(captivate)》なんてレベルの遥か下の下である、《映像で説明する、提示する》すら放棄している点が困るのだ。
映像で見せてほしい、看護婦たちの仕事のリアリティと専門性
朝ドラ『風、薫る』では、主人公のりん(見上愛)と直美(上坂樹里)が医療の現場で奮闘する姿が描かれている(と‘善意の解釈’をしている)。
しかし、作中ではその職業「看護婦(見習い)」が持つ専門性や本来の役割が十分に表現されていない。
例えば、単なる身の回りの世話をする看病の枠を超えた、医療従事者としての具体的な業務や誇りが伝わるような台詞が不足しているのだ。
私は、本作の現時点で次の要素がまことに不明瞭で困っている。
見習い看護師たちは…
【1】医療知識はあるけれど実力不足
【2】医療知識も実力も不足
【3】医療知識も実力も看病婦より上位
同時に、今回は登場しなかったが看病婦たちの看病の能力や態度、姿勢は…
【1】他の病院と同等、平均的
【2】他の病院より下位
【3】看病の能力が高いから、看護婦見習いを軽視・敵視
これらが、きちんと映像で描かれえていないまま進んでいるから、‘りん’や直美が「看護婦見習い」として《看護》をやっているように見えないのだ。
これだって、物語を導く役割の語り手、最近出番が減った占い師・真風(研ナオコ)が、‘りん’と直美に対して仕事への励ましや職業の重要性を伝える一言を添えるだけでも、印象は大きく変わるはずである。
真風(N)「りん 看護婦の仕事を頑張れ!」
真風(N)「少しずつ看護婦らしく見えてきてるよ、直美」」
ドラマの中で描かれる仕事の描写が、単なる日常の延長のように見えてしまうのは、非常に惜しい部分であり、ダメな部分である。
ナイチンゲールの看護思想から見えてくる、ドラマの丁寧な説明
ドラマという表現において、制作者が伝えたい意図を視聴者へ分かりやすく届ける工夫は不可欠だ。
特に、作品の中で十分に描ききれなかった背景や、登場人物の行動の動機を補う《補強・補足》は、物語の理解を深めるために重要な役割を果たす。
しかし、本作においてはそうした視聴者の視点に立った丁寧な説明や配慮が、十分に感じられない場面が目立つ。
まるで、「見れば分かるでしょ?」「多くは見せないので考察して!」と言わんばかりだ。
でも、少なくとも、梅岡女学校付属看護婦養成所でバーンズ先生(エマ・ハワード)が生徒らに「ナイチンゲールが提唱する〈看護〉をどう教えたのか?」は随所に散りばめるべきなのでは?
この場で、ナイチンゲール誓詞を私ごときが解説するつもりはないが、看護師の妻によれば。
ナイチンゲールの〈看護〉の思想の核心は…
「人間が本来持つ回復力を最大限に発揮できるよう、環境を整えること」
にあったのだ。
つまりナイチンゲール流に極端に要約すると…
「看護とは、生命が回復しようとする力を妨げず、支える環境と観察の技術である」
となる。
このことが本作中で明確に明瞭に描かれていれば、「りんが患者の気持ちをわかる、患者に寄り添う」ことはメインではなく、ナイチンゲールが語る「看護の本質」に隣接していることが分かると思う。
「人間には本来、回復へ向かう力が備わっている。看護とは、その力が妨げられないように“環境”を整える仕事である」
「清潔な空気、静けさ、適切な食事、光、温かさ──これらは薬と同じほど重要である。看護者は、病者が最もよく回復できる環境をつくる者である」
「看護者は“よく見る者”でなければならない。病者の変化を見逃さず、何が苦痛を与え、何が助けになるのかを見極めることが看護の基礎である」
そう、超超超好意的に脳内補完すれば「本作は大きくは間違っていない」のだ。
よって、物語の核心を伝えるための工夫は、作品の魅力を左右する大切な要素であり、受け手に対する丁寧な姿勢がより求められる。
千佳子の態度の理由が分からぬまま、繰り返される展開の新鮮さ
毎日、毎週放送される連続ドラマにおいて、物語の展開に変化を持たせることは、視聴者を飽きさせないために重要である。
しかし本作では、登場人物や場面の設定を少し変えただけで、前週とほぼ同じパターンのやり取りや問題が繰り返されている印象を受ける。
‘りん’と和泉千佳子(仲間由紀恵)の関係も、今回は少し進展したように見えるが。
結局、全体の印象は、‘りん’は積極的に関わろうとするも、千佳子は無視…である。
さらに、前の週に提示された課題(千佳子が‘りん’を排除しようとする理由が見えない)が明確に解決しないまま、次の週へと同じような展開が引き継がれている。
このように同じパターンの構造を短い期間で繰り返す手法は、物語の新鮮さを損ねる原因だと思う。
客寄せパンダな配役と直美ばかりが目立つ、ダブル主人公のバランス
話題性のある配役や特別なキャラクターを物語に登場させる際には、その存在を生かした丁寧な描き方が求められる。
単に注目を集めるためだけの配置にとどまってしまうと、出演する演者の魅力を十分に引き出すことができない。
例えば今回であれば、‘シマケン’こと島田健次郎(佐野晶哉 ex.Aぇ! group)である。
公式サイトの「あらすじ」にまで書き込んでいるのだから、言いたくないが明らかに客寄せパンダである。
しかし、今回を見れば分かるとおり、必要な登場人物は槇村(林裕太)と兄の宗一(上杉柊平)なのだ。
そこへ、強引にシマケンを絡めるから「集客力のある俳優と登場人物を利用したいだけ」と思われると思う。
また、本作には二人の主人公が存在するが、一方の直美の行動や変化ばかりが目立つため、もう一方の‘りん’の存在感が薄れてしまっている。
登場人物たちの心の変化をより一貫性を持って描くことで、それぞれのキャラクターが持つ魅力がさらに引き立つはずである。
でも、騒動で物語を動かそうと企むと、必ず直美を利用するから、結果的に「直美の印象」ばかりが強くなる。
ダブル主人公の本作において、これがいいはずがない。
後出しジャンケンで進むストーリー、バディものならもっと分かりやすく
本作は、二人の登場人物が互いに影響を与え合う「バディもの」の構造を意図して作られていると好意的に考えている。
しかし、物語の展開において、重要な事実が後から次々と明かされる手法が多用されているため、全体の流れが分かりにくくなっている。
そう、いわゆる《後出しジャンケン》である。
脚本家や演出家や制作統括は、視聴者に物語の真相を推理させるような、いわゆる考察系のドラマを目指しているのか!?
まさか、そんなことはあるまい。
しかし、その都度都度の説明不足による複雑さが《後出しジャンケン》の原因であるとも捉えられる。
いいや、間違いないと思う。
考察系を模倣せず、仕事と絆を丁寧に描くことで増す作品本来の輝き
最後に、今回も頑張って「このドラマの魅力をさらに引き出すため」を考えてみる。
本作がより多くの人にとって魅力的な作品になるためには、いくつかの具体的なアプローチが考えられる。
まず、登場人物が就いている職業の専門的な活動やその社会的意義を、具体的なエピソードや力強い台詞を通して明確に描写することが有効だ。
そのためには、占い師の語りによる補強や、いっそイラストによる解説すらやってもいいと思う。
次に、物語の展開においては、前後のつながりを論理的に整理し、後出しのような説明を減らして、視聴者が自然に感情移入できる流れを作る必要がある。
さらに、流行の形式(考察系ドラマ)をそのまま模倣するのではなく、キャラクター同士の絆や成長を独自の視点で丁寧に掘り下げることで、作品が持つ本来の輝きがさらに増すに違いない。
あとがき
この作品には、現代のドラマ制作が抱える様々な課題について、深く考えさせてくれるきっかけがたくさん詰まっています。
視聴者が「もっとこうすれば良くなるのではないか」と想像を膨らませながら応援できるのは、超好意的に考えれば、作品自体に‘まだ’わずかな伸びしろと魅力があるからです。
お知らせ
「本編」が説明不足なので、当ブログがあれこれと補強している「補足記事」(笑)
今回は、直美の担当患者で主訴は「背中がかゆい」の丸山忠蔵(若林時英)について書きました。
彼のモデルは、実は‘りん’のモチーフである大関和さんが看護婦時代の患者であり、個人的にも関係が深い人物です。
「本編」よりは面白いと思うので、ぜひ読んでみてください。
朝ドラ『風、薫る』直美(演・上坂樹里)の担当患者・丸山忠蔵(演・若林時英)のモデル!新宿中村屋を育てた相馬愛蔵の波乱万丈ストーリー ![]()
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【忠告】
NHK連続テレビ小説『風、薫る』の先の展開のネタバレは基本的に書いてありません。
ですが、ダブル主人公「一ノ瀬りんと大家直美」のモチーフである「大関和と鈴木雅」の[史実]について触れます。
あとから「読むんじゃなかった…」がないよう、読む際は自己責任でお願いします。
※以下、敬称は部分的に使い分けをします。
「丸山忠蔵」のモデルと思われるであろう相馬愛蔵ての史実
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―――ここまで、ごあいさつ―――
俳優・見上愛さんと上坂樹里さんがダブル主演を務め、見上さんが「大関和」、上坂さんが「鈴木雅」を演じて、「日本近代介護の黎明期」を描くNHK連続テレビ小説(朝ドラ)『風、薫る』(NHK総合・月~土、午前8時~ほか)。
第8週『夕映え』では、直美(演・上坂樹里)と、彼女の担当患者である丸山忠蔵(演・若林時英)のやり取りが描かれています。
そこで今回は、劇中の「丸山忠蔵」のモデルと思われるであろう相馬愛蔵(そうま・あいぞう)についての[史実]を記してみます。
きっと、「本編」では採用されない(と思います)エピソードを知ることになるので、より今作を深読みできると思います。
第1章:ドラマの患者さんにはすごいモデルがいた!
NHKの連続テレビ小説『風、薫る』には、たくさんのキャラクターが登場する。
主人公ひとり、大家直美(上坂樹里)が看護実習のときに担当する、丸山忠蔵(若林時英)という入院患者もそのひとりだ。
実はこの人物には、実在したおもしろいモデルがいる。
明治から昭和の時代を駆け抜け、有名な「新宿中村屋」を創業した実業家、相馬愛蔵(そうま・あいぞう)だ。
愛蔵は長野県の豊かな家に出生し、若い頃から勉強やキリスト教、カイコの熱心な研究、社会を良くする活動など、いろいろなことに興味を持った。
やがてカイコに関する専門的な本を出版し、将来を期待される専門家になっていく。
しかし、時代が明治から大正へと変わる中で、人々の生活や食べ物の好みはガラリと変化した。
愛蔵は新しい時代の流れを敏感に察知し、自分の考えを信じて、カイコの研究者からパン屋へと大胆に進路を変更した。
その後、妻の黒光と一緒に中村屋を大きく成長させ、パンや洋菓子、カレーの販売だけでなく、芸術家が集まる場所づくりにも力を尽くす。
しかし、ようやく商売が軌道に乗ったと感じた矢先、激しい戦争や空襲、そして戦後の大混乱という思いがけない苦難が次々と待ち受けていた。
第2章:豊かな故郷と早くに訪れた家族との別れ
相馬愛蔵は明治3(1870)年に、信濃国安曇郡白金村(現在の長野県安曇野市)で生まれた。
父親は安兵衛、母親は‘ちう’という名前だった。
相馬家は、愛蔵のおじいさんの代まで地域のまとめ役である庄屋を務めていたほどの地元の名家だった。
しかし、愛蔵がこの世に生を受けた頃には、家の経済状態はだんだんと苦しくなっていた。
さらに悲しいことに、生まれてすぐに父親を亡くし、明治9(1876)年には母親もこの世を去ってしまった。
愛蔵はとても幼い年齢で両親を同時に失うことになった。
そのため、子どもの頃の愛蔵は、お兄さん夫婦の手によって育てられることになった。
第3章:東京の学校で新しい学問と信仰に出会った青年時代
明治11(1878)年に穂高学校へ入った愛蔵は、明治17(1884)年に長野県中学校松本支校(現在の松本深志高校)へと進学した。
この学校で、のちに社会運動家として有名になる木下尚江と知り合い、交友を深めている。
明治20(1887)年になると愛蔵は上京し、東京専門学校(現在の早稲田大学)に入学した。
東京で学生生活を送る中でキリスト教に出会い、牛込の教会に通うようになる。
そこで押川方義や内村鑑三といった当時の有名な思想家たちと出会い、彼らの考え方から強い影響を受けることになった。
明治維新を迎えた後の日本は、新しい学校制度や外国の思想が勢いよく広がっている時期だった。
愛蔵も地方の名家の息子でありながら、大都会の東京で新しい学問と信仰に心を動かされた若者のひとりだった。
第4章:故郷の長野で打ち込んだカイコの研究と社会活動
明治23(1890)年に学校を卒業した愛蔵は、これからの進路として北海道に渡り、広い土地を切り開いて農場を作ろうと計画した。
しかし、育ててくれたお兄さん夫婦に反対されてしまい、この夢は諦めざるを得なかった。
その後は、故郷である長野県の穂高に戻り、カイコを育てる養蚕の研究に没頭することになる。
当時の日本にとって、カイコから作られる生糸は外国に売るための大変重要な貿易品だった。
特に信州はカイコのエサとなるクワの栽培や養蚕が盛んな地域であり、愛蔵の研究は地元の産業を支える大切な仕事だった。
明治27(1894)年に、愛蔵はそれまでの研究成果を1冊にまとめた『蚕種製造論』という本を世に送り出した。
さらに明治33(1900)年に出した本も何度も印刷されるほど評判になり、愛蔵はカイコ研究の専門家として一本立ちし始めていた。
その一方で、愛蔵はお酒を飲むのをやめようと呼びかける禁酒運動や、キリスト教を広める活動にも熱心に取り組んだ。
明治24(1891)年には地元の仲間と禁酒会を設立し、社会のきまりを正して真面目に働く大切さを地域に広めようとした。
この頃の愛蔵は、ただ机に向かう研究者にとどまらず、産業の発展と心の信仰、そして社会の改革を結びつけながら、地方の町から新しい日本の姿を見つめていた。
第5章:才能あふれる良との結婚と新たな挑戦への決意
やがて愛蔵の人生を大きく変える特別な出会いが訪れる。
明治30(1897)年、愛蔵は星良(ほし・りょう)という女性と結婚した。
ふたりは東京の牛込払方町にある教会で結婚式を挙げたあと、愛蔵の故郷である穂高へと戻って暮らし始めた。
このとき愛蔵は数え年で26歳、良は21歳だった。
妻となった良は、宮城女学校やフェリス英和女学校、明治女学校といった最先端の学校で学んだ知的な女性だった。
文学の才能に恵まれており、のちに「黒光(こっこう)」というペンネームで活動するようになる。
この名前は、明治女学校の校長先生だった巖本善治からプレゼントされたものだった。
しかし、自然豊かな穂高での田舎暮らしは、都会の文化に触れてきた黒光にとってなかなか馴染みにくいものだった。
夫の愛蔵もまた、このまま地方の町にずっととどまるだけでなく、何か新しい挑戦がしたいと考え始める。
第6章:東京への進出と大ヒット商品の誕生
明治34(1901)年、相馬夫妻は決意を固めて東京へ引っ越した。
そして同じ年の12月30日、本郷区森川町にあった「中村屋」というパン屋を買い取り、そのままの名前で商売を開始した。
もともと営業していた店をそのまま譲り受ける形でのスタートだった。
当時の日本社会では、パンはまだ一般の家庭に深く浸透している食べ物ではなかった。
愛蔵と黒光は、世間であまり馴染みがない分、既に始めているライバルの店との実力差が大きすぎないビジネスとして、あえてパン屋という仕事を選んだ。
明治37(1904)年には、カスタードクリームを詰めたクリームパンやクリームワッフルを新しく開発した。
このクリームパンは、他のお店のあんパンやジャムパンと並んで、日本の三大菓子パンと呼ばれるほど大ヒットすることになる。
商売が繁盛した中村屋は、明治40(1907)年に新宿へ新しい支店を出した。
さらに明治42(1909)年には現在の場所へと店を移し、パンだけでなく和菓子の販売もスタートさせた。
第7章:芸術家を支えたサロンと本場のカレー誕生
中村屋の最大の特徴は、美味しい食べ物を売るだけでなく、多くの文化人や芸術家が集まって交流する賑やかな場所になったことだ。
相馬家には、彫刻家の荻原碌山をはじめとするたくさんの芸術家が出入りするようになった。
これが、のちに「中村屋サロン」と呼ばれる特別な集まりへと発展していく。
このサロンには、荻原碌山のほかにも、詩人で彫刻家の高村光太郎や、画家の中村彝など、日本の美術史に残るような芸術家たちが集まった。
愛蔵と黒光の夫婦は、お金の面でも心の面でも、若き芸術家たちの活動を優しく支え続けた。
大正4(1915)年には、インドの独立運動家で、政府から追われていたラス・ビハリ・ボースという人物を中村屋の敷地内に隠して守った。
この出来事が縁となり、ボースはのちに相馬夫妻の長女である俊子と結婚することになる。
その後、ボースが本場の作り方を伝授して完成した「純印度式カリー」は、中村屋の喫茶室で一番の人気メニューになった。
このように中村屋は、単なる食べ物屋さんではなく、食の文化、芸術、国際的な交流、そして社会を動かす運動が混ざり合う、不思議な魅力を持った場所だった。
第8章:大震災での助け合いと喫茶室のオープン
順調に見えた中村屋にも、少しずつ激動の時代の波が押し寄せてくる。
大正12(1923)年、中村屋は個人の商店から株式会社という組織に生まれ変わった。
その同じ年に関東大震災という大災害が起こると、中村屋は苦しむ人々のためにパンやまんじゅうを不眠不休で作り続け、被災した人たちに特別な安値で配った。
昭和2(1927)年には、お店の中に新しく喫茶室をオープンさせた。
あのボース直伝の本格カレーやボルシチは、この喫茶室の目玉商品として世間の大きな注目を集めることになる。
第9章:空襲での店舗焼失と土地を取り戻すための裁判
しかし、昭和の時代は愛蔵にとって非常に苦しい試練の連続だった。
昭和20(1945)年5月25日に行われた激しい空襲によって、大切にしてきた中村屋の店舗は全て焼け落ちてしまった。
さらに戦争が終わったあと、新宿の街に広がった闇市の影響で、中村屋の所有する土地が勝手に使われてしまうというトラブルが発生した。
愛蔵は昭和22(1947)年に裁判を起こして戦い、ようやく自分たちの土地を取り戻すことができたのは、昭和28(1953)年のことだった。
若い頃に明治の近代化を肌で感じ、働き盛りの頃に大正の華やかな都市文化を育てた愛蔵は、人生の終盤になって戦争と敗戦による大混乱を身をもって経験することになったのだ。
第10章:次の世代への引き継ぎと文化を結んだ生涯の幕引き
昭和23(1948)年、長男の相馬安雄が2代目の社長になり、愛蔵は会長の座へと退いた。
しかし、社長を引退した後も、お年寄りの福祉を助けるための活動に熱心に関わり続けた。
昭和26(1951)年に愛蔵は脳の病気を患ってしまう。
それでも諦めずに活動を続け、翌年の昭和27(1952)年には妻の黒光と一緒にこれまでの歩みを振り返る本を出版するなど、最期までエネルギーを失わなかった。
そして昭和29(1954)年2月14日、相馬愛蔵は自宅で病気のために息を引き取った。
83歳の大往生だった。
彼のお墓は、東京都府中市にある多磨霊園に建てられている。
相馬愛蔵は、日本の新しい食文化と都会の文化に、とても大きな足跡を残した素晴らしい実業家だった。
彼の生涯は、豊かな自然が残る安曇野の養蚕研究者から、大都会である新宿の立派なビジネスマンへと変身を遂げ、商売を通じて文化と人間を固く結びつけた、歴史の架け橋となる歩みだったと言える。
第11章:命を救われた若き日から始まった一生モノの固い絆
明治22(1889)年ごろ、上京したばかりの若き相馬愛蔵は、肌の激しい病気である疥癬にかかって病院に入院した。
このとき、周囲から嫌がられるほどの重い病状だった愛蔵を優しく担当したのが、看護師長を務めていた大関和(おおぜき・ちか)だった。
※大関和は、一ノ瀬りん(最上愛)のモチーフとなった実在の人物
和は一刻も早く学校に入学したいという愛蔵の願いを叶えるため、お医者さんと相談して薬を塗る回数を増やす特別な治療を行った。
嫌な顔ひとつせず誠心誠意つくしてくれた和の美しい看護の姿に、若き日の愛蔵は心から深く感動し、大きな恩義を感じた。
この入院生活での温かい思い出や和への深い感謝の気持ちは、のちに愛蔵の妻である黒光の本の中にも素晴らしい賛辞として書き残されている。
大関婦長が病室に入ってくると患者の顔が明るくなる
※出典:相馬黒光『穂高高原』
二人の心温まる関係は、病院の中だけの一時的な「患者と看護師」という間柄にとどまらず、お互いが年を重ねた後も長く続いていった。
愛蔵がのちに東京の本郷でパン屋の中村屋を開業したとき、すでに看護の世界で有名になっていた和は、彼のお店をわざわざ訪れて熱心に応援した。
和は自分の部下である看護師たちに向けて、パンは栄養がたっぷりで健康にとても良い食べ物だと教え、中村屋の商品を積極的に勧めて回った。
まだ世間でパンを食べる習慣が少なかった時代において、医療の専門家である和が太鼓判を押してくれたことは、愛蔵にとってこれ以上ない心強い後押しとなった。
愛蔵は生涯にわたって和のことを人生の大恩人として慕い続け、中村屋が新宿の大きなお店に成長し、和が晩年を迎えてからもその深い敬意と熱い交流が途絶えることはなかった。
あとがき
朝ドラ『風、薫る』に登場する丸山忠蔵のモデル、相馬愛蔵の生涯はいかがでしたか。
田舎の養蚕研究者からスタートして、東京で誰もが知る「新宿中村屋」を作り上げ、さらには芸術や国際交流の場まで提供したというお話は、まるでそれ自体がひとつの壮大なドラマのようですね。
激しい戦争や土地のトラブルといった数々の困難に直面しても、決して諦めずに前を向き、社会のために尽くし続けた愛蔵のポジティブな生き方には、現代に生きる私たちもたくさんの勇気をもらえます。
また、[史実]を掘り下げると、実は‘りん’のモチーフの和さんの担当患者だったので、本作では直美担当に改変されており、これまた余計に「キリスト教排除」の傾向が強くなっているわけです。
※[史実]に基づけば、直美よりも‘りん’のほうがキリスト教信者の設定になるのが自然ですから。
ドラマで描かれるフィクションの奥に、こうした史実を知ることで、物語がより深く、温かく感じられると思います。
読者の皆様の “ドラマを楽しむ” ためのお役に立てれば幸いです。
参考・出展
■田中ひかる(著)「明治のナイチンゲール 大関和物語」中央公論新社 ![]()
■メディアソフト(編集)「大関和と鈴木雅の人生」 ![]()
■伊多波碧(著)「小説 もうひとりのナイチンゲール 鈴木雅の生涯」潮出版社 ![]()
■毎日新聞出版(編)「Newsがわかる特別編 大関和がわかる」毎日ムック ![]()
■土曜会歴史部会(著)「日本近代看護の夜明け」医学書院 ![]()
■東京大学医学部附属病院百年史 ![]()
■知命堂病院百二十年史 ![]()
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原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
脚本:吉澤智子(過去作/ドリームチーム,幸運なひと,くるり~誰が私と恋をした?~)
演出:佐々木善春(過去作/ごちそうさん,マッサン,あさが来た) 第1,4,8週
新田真三(過去作/あさが来た,べっぴんさん,トクサツガガガ) 第2,6週
橋本万葉(過去作/とと姉ちゃん,生理のおじさんとその娘,おむすび) 第5週
松本仁志(過去作/光る君へ,どうせ死ぬなら、パリで死のう。) 第3,7週
制作統括:松園武大(過去作/とと姉ちゃん,半分、青い。,ちむどんどん)
宮本えり子(過去作/なつぞら,エール)
音楽:野見祐二(過去作/光る君へ,どうせ死ぬなら、パリで死のう。)
主題歌:Mrs. GREEN APPLE「風と町」
語り(本編):研ナオコ
土曜日版ナレーション:石橋亜沙(NHK東京アナウンス室)
※敬称略
時代背景とズレてる?「看護婦」のセリフに覚える大きな違和感
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―――ここまで、ごあいさつ―――
前回の大ラスのセリフだったから、面倒なのでスルーしたのだが。
まさか、脚本家や演出家や制作統括が「今回も」アバンタイトルから引用してきたので言及しておく。
明治時代が始まったばかりの日本は、新しい仕組みとともに多くの新しい言葉が作られた時期である。
放送中の朝ドラ『風、薫る』の劇中において、次の和泉千佳子(仲間由紀恵)のセリフが、前回と今回にまたがって大きな違和感を抱かせていた。
千佳子「あなたは 私を看護する
看護婦とやらなんでしょ」
なぜなら、作中のこの時点(時代を含む)ではまだ「看護婦」という存在自体が一般に普及していないからである。
いくら本作が[史実]をもとに、[原案書]をベースにした “フィクション(つくりもの)” であろうが、歴史的な背景を描くドラマでは、当時の空気感を壊さないために現代の言葉を使わないよう工夫するのが通常運転なのだ。
しかし、この作品ではまだ(劇中の)一般社会では定着していないはずの「看護」という言葉が何度も繰り返され)る。
しかも、「看護婦見習い」と同時に「看病婦」なる言葉(立場・役割)まで、何の説明のなく使われている。
やはり私は、多くの(必死に好意的に解釈しようとはしない)視聴者が物語に深く入り込むために、当時使われていた「看病」という馴染みのある言葉と、新しく生まれた「看護」という言葉の違いを、劇中でしっかりと描き分ける必要があったと思う。
もちろん、時すでに遅し…であるが。
観音様で説明は無理がある?言葉の解説こそ黒板で見せるべき
かつて、劇中では「observe(=観察)」という言葉の説明として「観音様」を引き合いに出す場面もあった。
※第25回(2026年5月1日放送)で、大家直美(上坂樹里)が看護の授業の課題である「observe」の訳について尋ねた際、津田捨松(多部未華子)が「see」や「watch」との違いを説明し、「観音様のように包み込むように見続ける」という意味合いとしてこの言葉を挙げていた。
しかし、あの際にはあえて言及しなかったが、この説明は論理的とは言えず、かえって分かりにくさを生んでいたのだ。
現代の視聴者だけでなく、当時の人々にとっても「見る」と「観る」、そして「看る」という漢字の違いを言葉の響きだけで理解するのは非常に困難だからである。
このような複雑な言葉の違いを伝えるためには、耳で聞く台詞だけでなく、視覚的な文字を活用すべきであった。
物語の舞台となっている学校の環境や、そこに通う女性たちの身分、そして当時の教育水準を考慮すれば、黒板に文字を書いて説明する、または書籍を開いて見せるような演出が自然であり、言葉の意味も説得力を持って伝わったはずである。
もちろん、時すでに遅し…であるが。
明治にしてはセリフが現代風?直美の言い返しに感じた違和感
5分過ぎ、帝都医大病院の病室内で、外科教授・今井益男(古川雄大)が、主人公の一人・直美(上坂樹里)の担当患者・丸山忠蔵(若林時英)にご機嫌取りをやらせた場面。
そこで、看病婦の永田フユ(猫背椿)と直美の次のやり取りがあった。
フユ「随分 ずるい女ね」
直美「ずる賢い女って言ってくれます?」
この場面は、コミカルな雰囲気を交えながらキャラクターの頭の回転の速さを表現しており、直美の出番のシーンにしては、ただ感情的に怒鳴り合う場面よりも脚本の作劇としての質は高いと言える。
しかし、この言葉遣いが明治時代という背景に本当に適していたかどうかは議論が分かれるところだ。
「ずる賢い」という表現の裏には、「要領が良い」や「能力が高い」といった肯定的な意味合いを隠すこともできる。
確かに、直美は若い男性患者を窘めて(たぶらかして)、自分の思うように動かしたという意味では「若い女」を利用したしたたかな作戦を成功させたと言える。
しかし、この二人のやり取りで、本当の意味の直美を言い表しただろうか?
それこそ、それなりに賢い、または、ずる賢い人間であれば、「随分 ずるい女ね」に言い返すなら「うまいこと言いますね」「お褒めの言葉ありがとうございます」「そちらも見習っていいですよ」くらいに、皮肉を込めて返してこそ…なのでは?
日常の会話において、人々がドラマや映画の「セリフのような表現や長々とした説明口調」を自然に使うことは滅多にないのだ。
それだけに、時代劇におけるひと言ひと言の選択は、登場人物の職業や状況を映し出す重要な要素となるので、もっと慎重にやってもらいたかった。
もちろん、怒鳴り散らす、相手を侮辱するような直美よりは、はるかにマシではあるが。
初歩で行き詰まるヒロイン?座学が活きない朝ドラの展開に疑問
このような稚拙なドラマでも、まだまだ言及しておかなければならない点は山ほどある。
その一つが、物語の展開において、主人公の行動と設定の間に噛み合わない部分が目立つことだ。
メインの主人公である‘りん’は「看護の基礎」をまだ十分に理解していないように見えるが、既に梅岡女学校付属看護婦養成所で学び、バーンズ先生(エマ・ハワード)の許可を得て制服を着用している身である。
それにもかかわらず、初歩的な部分で行き詰っている描写には疑問を抱かざるを得ない。
もちろん「実習中だから」と甘く見てやり姿勢も悪くない。
しかし、「物語を前進させる」意味でも、「座学から実習に進んだ」という意味でも、もっと自己問題解決能力を発揮する展開でもよいのでは?
当然、《『風、薫る』の主人公は、朝ドラの王道のブレイクスルーし続ける力強いヒロインではない》との見方もあるだろう。
それでも、繰り返しになるが、「座学」をほぼ描かなかった本作として、実習中でも息詰まるのは「座学の意味がない」のとほぼ同義になるから、やるべきでないと思う。
また、劇中で使用された「気持ちが分かる」という台詞も、現代の感覚が強すぎて当時の物語としては不自然に響く。
学校での学習内容や指導者からの教えが主人公の行動に結びついておらず、全てを「今の自身の感覚だけ」で解決しようとしているように映るため、これまでの教育の過程が十分に活かされていない印象を与えてしまっているのだ。
教わってないから分からない!直美のボヤキにやっと納得の朝ドラ
今回で唯一よかったことは、以下の直美のセリフだ。
直美「患者さんのこと分かれっていうけど
ナイチンゲール先生 方法は書いてない」
もう詳しく書かないが、本作は、本来ならばしっかりと描くべき「座学」をほぼすっ飛ばした。
このことによって、りん(見上愛)たち看護婦見習いが「どこまで看護を勉強したのか?」が分からないのだ。
しかし、この度のセリフで、なんとか「教わっていない項目」があることは分かった。
もちろん、堂々たる後出しジャンケンであり、これ以上に褒めることなど無理だ。
しかし、「やらないよりマシ」の意味で、一定の評価はできると思う。
まあ、その直前の‘りん’が言った「ナイチンゲール女史」のイントネーション(アクセント)が「令和のアナウンサー式」になっていたのはこの際「栃木弁だから」ということで無視しておく。
言葉への戸惑いや学びの成果を!朝ドラの魅力をさらに引き出す策
最後に、今回も頑張って「このドラマの魅力をさらに引き出すため」を考えてみる。
登場人物たちが新しい言葉に出会った瞬間の戸惑いを丁寧に描写することが効果的だと思う。
例えば、新しい言葉を耳にしたキャラクターが首を傾げたり、その言葉の意味をメモ(手帳)に文字で書き記して確認し合ったりする場面を設けることで、時代背景がより鮮明になるのでは?
さらに、主人公が学校で何を学び、どのように成長したのかを明確に示すエピソードを劇中に組み込むのがよいと思う。
バーンズ先生からの具体的な教えがピンチを救う鍵になるような展開だ。
橙それを作ることで、主人公の行動に対する説得力が増し、視聴者がより深く物語に共感できるようになると思う。
あとがき
本作は、明治という激動の時代を舞台に、新しい道を切り拓こうとする女性たちの姿を意欲的に描いてはいると思います。
当時の人々が新しい言葉や概念を受け入れていく過程をより丁寧に描写することで、歴史の転換期を生きる人々のエネルギーがさらに生き生きと伝わってくるはずです。
そのためには、登場人物たちの成長の足跡を一つずつ大切に描く工夫を加えることで、彼らのひたむきな挑戦が、観る人の心を一層熱くさせる魅力的な物語へと進化する可能性は多少はあると思います。
ただ、今回は、というか今週は、吉澤智子氏の脚本と、松本仁志氏の演出がかみ合っていない印象で、二日連続で「15分」が「30分」くらい長く感じます。
最大の原因は、演出が「セリフを聞かせる」を重視しすぎて、《映像で見せて(show)魅せる(captivate)》が蔑ろになっているからだと推測します。
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関西テレビ制作・フジテレビ系・新 月10ドラマ『銀河の一票』
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第5話『負け犬たちのアベンジ アベンジャーズ作戦開始!』、フジ公式『負け犬たちのアベンジ ~選挙の天才の奇策とは!?』の感想。
元幹事長秘書・五十嵐(岩谷健司)が参謀に加わり「チームあかり」は勢いを増す。拠点も銭湯に決まり態勢が整う一方、流星(松下洸平)は鷹臣(坂東彌十郎)の後押しで出馬し支持を拡大。五十嵐はその裏に雫石(山口馬木也)の策略を見る。対抗策として大胆な一手を提案し、鍵を握る元市長・蛍(シシド・カフカ)の説得に動くが、その過去には鷹臣の影があり茉莉(黒木華)は葛藤を抱え…。
---上記のあらすじは、当ブログのオリジナル---
原作:なし
脚本:蛭田直美(過去作/しずかちゃんとパパ,舟を編む)
演出:松本佳奈(過去作/コタローは1人暮らしS1,きのう何食べた?S2) 第1,2,3話
藤澤浩和(過去作/低体温男子になつかれました。,ホンノウスイッチ) 第4,5話
瀧悠輔(過去作/大豆田とわ子と三人の元夫,シェフは名探偵)
稲留武(過去作/秘密~THE TOP SECRET~,僕達はまだその星の校則を知らない)
主題歌:浜野謙太(ex.在日ファンク)&後藤真希 feat. 黒木華&野呂佳代「おーへい」
音楽:坂東祐大(過去作/大豆田とわ子と三人の元夫,17才の帝国)
P:佐野亜裕美(過去作/大豆田とわ子と三人の元夫,17才の帝国,エルピス-希望、あるいは災い-)
※敬称略
東京都知事選へ出馬!?ドラマ『銀河の一票』の中盤戦を考察
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今の社会にある課題をエンターテインメントとしておもしろく描いているドラマがカンテレ・フジテレビ系で放送中の『銀河の一票』ではないだろうか。
自身の父親であり、有力な政治家である民政党の幹事長の星野鷹臣(坂東彌十郎)の裏の顔を疑ったために、仕事と住まいを同時に無くした父の元秘書である星野茉莉(黒木華)が主人公)だ。
彼女が、偶然知り合ったスナックの経営者である月岡あかり(野呂佳代))へ東京都知事選挙に出ることを提案した点から話が動き出したのが本作だ。
今回の感想は、おそらく令和8(2026)年5月18日に放送された第5話が連ドラとしての「折り返し地点」であると考えられることから、物語をさかのぼって考えて、書いてみようと思う。
過去の雪辱を果たせるか?訳あり新人市長が語る選挙への熱い思い
第4話『選挙の天才・テンサウザンド』において、選挙に挑むことを決めたものの知名度のないあかりを勝利に導くべく、茉莉は、‘テンサウザンド(当選=とお せん)’と呼ばれる選挙の達人・五十嵐隼人(岩谷健司)の元を訪れて協力を求めた。
しかし五十嵐は、過去に茉莉の父親である民政党幹事長・鷹臣の部下として働いていた際、納得のいかない形で役職を追われた経験があり、再び政治の世界に関わることを嫌がった。
それでも、茉莉があきらめずに声をかけ続けたことや、自分が日頃から支えていた働く人々から勧められたこともあり、最終的には作戦を立てる役職としてチームに加わることを決意した。
そして今回である第5話『負け犬たちのアベンジ アベンジャーズ作戦開始!』で茉莉は、令和6(2024)年の西多摩市長選挙で五十嵐のバックアップを受けてトップ当選を果たした雲井蛍(シシド・カフカ)の元へ向かった。
蛍は当時は誰も知らない新人だったが、以下のセリフをスローガンにして大きな流行を生み出し、激しい選挙を勝ち抜いた過去がある。
蛍「ぶっ飛ばすよ!」
しかし、蛍はたった1年で市長の座を退き、政治から完全に離れてしまっていた。
その裏には、やはり鷹臣の妨害工作が存在していた。
このような過去の出来事や、息子の陽太(山本弓月)の育児が重なっているため、蛍は再び選挙活動に関わることに抵抗を感じていた。
その一方で、心の中には次のような熱い思いが残っていることも打ち明けた。
蛍「もう1回 あの場所に
あの場所で戦いたいって」
自分の弱さに気づく瞬間!ドラマに描かれる点字ブロックの意味
これまでの物語を読み解く上で、重要なシンボルとして描かれているのが《点字ブロック》ではないだろうか。
第1話『元政治家秘書とスナックのママが都知事選に挑む!?』では、まだ父親の秘書を務めていた頃の茉莉が通勤中に、黄色いブロックの上にカバンを置いて列車を待つ会社員を注意するシーンがあった。
その男性は以下のように言い返した。
男性「(通行人が)来たらどかすから」
これに対し、茉莉は次のように述べて相手を完全に言い負かした。
茉莉「先ほど 私が声をかけたら
気づかれませんでしたよね?
スマホを凝視しているときの視野は
通常時の20分の1という研究結果も」
しかし、そんな毅然とした茉莉であっても、仕事を失い自宅を追い出されて行き場をなくしたときには、気がつかないうちに点字ブロックの上に荷物を置いてしまい、歩く人の妨げになってしまった。
第1話に登場したこのブロックは、普段は決まりを守り、注意深く生活しているつもりでも、自分のことで頭がいっぱいになると周囲への配慮を忘れてしまう人間の弱さを表現している。
これはまさに、当時の茉莉自身の心理状態を表していると言える。
また第4話では、ブロックを塞ぐように自転車を止めておしゃべりをしていた高校生たちへ、五十嵐がにこやかに話しかける場面があった。
生徒たちは五十嵐の言葉に従い、嫌そうにしながらも自転車を動かした。
五十嵐の相手を気遣い親しみやすい話し方から、私自身も油断すれば同じように他人の邪魔をしてしまうかもしれない、という謙虚な気持ちになれた。
このような “些細な気づき” を教えてくれる、これも本作のよきところ)だと思う。
演説に隠された過去と本音!点字ブロックが繋ぐ政治家の原点
目の不自由な人のために足元を空けておくという同じマナーを扱っていても、茉莉と五十嵐では注意の仕方が全く違い、受ける印象も異なる。
これは二人の社会的な立ち位置の違いや、これまでの人生経験によるものと考えられる。
ここから学べるのは、多様な人々が暮らす社会では、互いを思いやりながら生きていくことが不可欠だということである。
第5話でもこのブロックは重要な場面で現れる。
東京都知事選で大本命とされる日山流星(松下洸平)が路上でスピーチをするシーンである。
彼の演説に耳を傾ける多くの聴衆たちが、点字ブロックの上に立ちふさがっていたのだ。
この場面では、流星が子供の頃に苦しい家庭環境で育った過去が明かされた。
当時の彼は、家庭でのトラブルからパジャマ代わりの服を着て裸足のまま外へ飛び出していた。
幼き流星は足元の黄色いブロックをたどりながら必死に走り、その先で当時40歳だった鷹臣(坂東新悟)の街頭演説に出会った。
そのとき鷹臣は以下のように叫んでいた。
鷹臣「助けてと声をあげられる社会
応えられる政治 それこそが
我々 民政党の政治の原点だと
私は思います」
これを聞いた少年時代の流星は、自らの格好を見て次のように考えた。
流星(M)「大丈夫 いける。
今 俺は完璧にかわいそうだ」
阻害された環境の中で、少年・流星は次のように救いを求めた。
流星「助けてください!」
そして、流星は回想で次のように語る。
流星「その瞬間 俺のかわいそうは
物語になった」
これが流星の政治家としての原点であった。
当時の鷹臣はまだ強い権力を持っていなかったが、一般の人々の苦しみに共感する姿勢をアピールすることで人々の支持を集め、やがて政界のトップへ登り詰めたことが分かる。
本当に困っている人は見えない?偉くなった政治家への違和感
流星のスピーチに集まった人々がブロックを塞いでいる描写は、実際の社会でも一部の政治活動が歩行者の邪魔をしてトラブルになった実例を参考にしているのだろう。
鷹臣が掲げた「困っている人を救うという理想」とは反対に、その場所では誰も本当に困っている人の足元を気にかけていない。
第2話『守りたいもの、 出馬できない理由』で茉莉は、都知事の役割について以下のように語っていた。
茉莉「上じゃなくて、前です。
同じ地面に足を着けて 同じ景色の中を
同じ気温を感じながら同じ道を歩くんです。
先頭を、明るい方へ」
これはリーダーとしての正しいあり方を示している。
しかし流星は、集まった人々に対してブロックを空けるよう注意することはなかった。
幼い頃は助けを必要とする側の立場にいた流星が、出世を望むあまり、一般の人々と同じ目線を持つことを忘れてしまったのだ。
流星には、既に特別に偉くなったと思い込む気持ちが生まれているように見える描写である。
迫力の説得劇!「ぶっ飛ばすよ!」の叫びに重なる親子の絆
長くなったので、まとめよう。
今回の第5話の最大の見どころは、茉莉たちが蛍を説得しようとする一連の場面だ。
蛍が味わった苦い経験や、その人生の重みには強い説得力がある。
語られる政策や言葉のやり取りには迫力があり、それぞれの歩んできた人生の違いがドラマの深みを生み出た。
そして、蛍が口にする「ぶっ飛ばすよ!」は、単なる勢い任せのセリフではなく、理不尽な現実に対する心の底からの叫びなのだ。
劇中で大黒摩季の楽曲『あぁ』を耳にしたことで、蛍はかつて自分が何のために立ち上がったのかを思い出す。
また、蛍の息子は母親の心の痛みを察し、嵐の夜に励ましの言葉「元気!勇気!花よ 咲け!」をかける。
まだ甘えたい盛りの年齢でありながら、子供は親の姿をしっかりと見つめ、共に困難を乗り越えようとする強さを持っているのだ。
そして、このことは、かつて子供だった頃の「父親のために」「母親のために」と頑張った茉莉の姿にも重なるものである。
あとがき
このドラマは、私たちの生活に深く関わる選挙や政治というテーマを、とても分かりやすく教えてくれる作品ですね。
登場人物たちがそれぞれの正義や過去を抱えてぶつかり合う姿は、見ていて胸が熱くなります。
点字ブロックのような身近な目印を通して、社会で共に生きることの大切さを考えさせてくれる点も非常に魅力的です。
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第36回/第8週『夕映え』の感想。
※ 毎日毎日の感想なので、私の気分も山あり谷ありです。ご理解を。
※ また、称賛、絶賛の感想だけをご希望の方は読まないほうが良いです。
りん(見上愛)は、千佳子(仲間由紀恵)の看護を任されることになる。しかし千佳子は、りんを受け入れようとせず、冷たい態度を取り続ける。どう接すればいいのか悩んだりんは、直美(上坂樹里)、多江(生田絵梨花)、喜代(菊池亜希子)たちに相談し、千佳子と向き合うためのヒントを得るのだが…。
------上記のあらすじは、公式サイト等より引用------
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連続テレビ小説『風、薫る』では、(一応は)医療やケアに向き合う人々の姿が描かれている。
しかし、主人公たちがその活動の大切さをどのように理解し、成長していくかという過程が十分に表現されていない。
例えば、今回ではりん(見上愛)に、さも大発明、大発見したように言わせていたが。
りん「患者さんと おんなじ気持ちになる」
‘この程度’のことも、養成所の座学では教わらなかったのか?とか。
そもそも、世間一般では「看護婦と看病婦」以前に、「看護と看病」の違いが認識されているのか否かとか。
とにかく、本作はこれまでの「35回分=7週間分」で、ほぼまともに《看護》を描いていないのだ。
梅岡女学校付属看護婦養成所のくだりで、「看護とは何か?」の座学もそこそこに実習へ進めたため、主人公たちが「必死に看護を学んできた」という裏付けも皆無なのだ。
謎解き風の演出は逆効果?設定不足で物語の説得力も皆無に
特に問題なのは、‘りん’と直美(上坂樹里)の人間性が未だに曖昧でぼやけている点と。
物語にも、《看護》にも、深く関わるバーンズ先生(エマ・ハワード)の人間的背景といった基本となる描写の欠落だ。
と同時に、りんが受け持つ入院患者で侯爵夫人・和泉千佳子(仲間由紀恵)の人柄のような部分を、妙な謎解きドラマ風に隠しているため(後出しジャンケンするだろうが)、ただ意味なく「意思疎通すらまともにできていない」にしか見えないのは問題では?
結局、あれこれと盛り込んではいるが「描けていない部分」が多すぎるから、物語としての説得力も皆無なのだ。
7週間は何だったの?今回が第1回でも通用しそうな朝ドラ
“ドラマ” として最も大切なはずの登場人物の背景や設定が不足している…ことは前述したとおりだ。
だから、視聴者は自ら「好意的な脳内補完」を精いっぱいやりながら自分の想像でその隙間を埋める必要がある。
もし、これほど土台(登場人物の背景や設定)となる描写が薄くてよいのであれば、これまでに放送された「35回分=7週間分」もの物語は必要なかったのではないだろうか?
「なんとなく、看護や看護師が一般的でなかった時代のお話」程度の「雑な設定」で進めるなら、ハッキリ書くが《今回が第1回でもよかった》とさえ思うし、違和感もそんなになかったのでは?
この構成は、毎朝時間をかけて描かれる物語を少しずつ楽しみにしている視聴者にとって、これまでの積み重ねの意味が薄れてしまう原因になりかねないのだ。
いや、既に多くの好意的に見てきた視聴者も、(私を含めて)落胆していると思う。
逆バージョンの後出し?朝ドラの回りくどい演出に呆れる予感
アバンタイトル(番組の冒頭であるオープニング前の導入部分)において、以前のエピソードを意識したような複雑な仕掛けが見られた。
それは、しかし、帝都医大病院の院長・多田重太郎(筒井道隆)ら4人の男性医師たちが「英語が分からない」という設定のことだ。
今回の描写では、多田院長と外科助教授・藤田邦夫(坂口涼太郎)は「英語が分からない」設定のように見えたが。
ドイツに留学していたエリート医師で外科教授・今井益男(古川雄大)と、外科助手・黒川勝治(平埜生成)については、明瞭に「英語が分からない」設定には描かれていなかった。
そう、もしかすると、お得意の後出しジャンケンのシステムで「実は英語が分かっていた」とやるのでは?
要するに、以前に「実は、バーンズ先生は日本語を話せる設定でした…」の逆バージョンをやる気があるのでは?ということ。
ドラマの根本的なストーリー展開や構成が、相当に大まかであるにもかかわらず、こうした細かい伏線や、後から意外な事実を明かすような構成や演出ばかりに力が注がれているように見える。
「一話15分」という限られた時間の中で、しかも忙しい朝の時間帯に見るドラマとしては、このような回りくどい方法は視聴者を置いてきぼりにしてしまう可能性がある。
いや、確実に「またやったの!?」と呆れるしかないので、期待がハズレることを願うばかりだ。
細かいテクニックより土台を丁寧に!朝ドラが魅力的になる方法
この作品をより魅力的なドラマにする策をひねり出してみると、何とかいくつかつかの工夫が考えられる。
まず、複雑な伏線や後からの情報開示といった細かいテクニックに頼るのではなく、物語の土台となる部分を丁寧に描くことが求められる。
具体的には、主人公たちが仕事の難しさや喜びに気づくプロセスをじっくりと見せ、登場人物たちの結びつきやバーンズ先生の役割を分かりやすく伝えるべきである。
そうすることで、視聴者が好意的な脳内補完をする必要がなくなり、毎日の放送をより深く楽しむことができるようになると思う。
あとがき
かのフローレンス・ナイチンゲールは、名著『看護覚え書』の中で「看護とは、新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさなどを適切に整え、患者の生命力の消耗を最小にすることである」と提唱しました。
特に「清潔さを保つこと」は、回復を早めるための最重要環境要素と位置づけられています。
せめて、このことだけでも、先週までの「座学」で徹底的にバーンズからの教えとして強調してあれば、今回の‘りん’の態度も、ただのホテルの客室清掃係の戯言のようには見えなかったと思いますよ。
もしかすると、脚本家や演出家や制作統括は「視聴者も主人公たちと一緒にトレインドナースを学んでいく」のつもりで描いている可能性もありますけれど。
やっぱり、「そもそも、看護とは何か?」はきっちりと提示した上でないと「トレインドナース」を理解するのはハードルが高すぎます。
もう、どうすることもできませんけれど。
それにしても、特に‘りん’、ここまで患者を‘observe’(観察)しないのは、なぜ???
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